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第44話 実は前からバレていた

「くッくくく、お母さんすごいね」 「だから聞かないでって言ったのに!」  霧咲の笑う声を聞きながら、榛名はげんなりとした。霧咲は榛名の横に座ると、だらけた姿勢の榛名をよいしょ、と引っ張り上げて横から優しく抱きしめた。よしよし、と頭を撫でてくれるオプション付きだ。 「聞かれたくなかったのはお母さんのセリフ?それとも君の可愛らしい方言?」 「どっちも……」  そう言って、榛名は顔を赤らめて口を尖らせた。 「どうして?すごく可愛かったよ。九州出身だってことは最初会った時から気付いてたけど……うん、新鮮だ。お母さんも怒ってたけど、なんか可愛かったな」  霧咲はそう言って榛名の頭に口づけたが、榛名は焦ったような顔を霧咲に向けた。 「ちょッ、最初から気付いてたって本当ですか!?俺、普段から方言出てました!?」 「いや、そんなダイレクトには出てないけど……イントネーションが少し関東とは違うかなってところがちらほら。多分リュートさんも気付いてると思うけど」 「まじですか……うわ、恥ずかしい!」  榛名は霧咲の胸で顔を隠した。恥ずかしがっているのに行動が可愛すぎて、霧咲はつい(わざとか?)と勘繰ってしまう。勿論、榛名が素でやっているのは分かっているのだけど。 「今の職場の人に気付かれたことないのに……患者さんにも」 「隠したいの?」 「隠したいっていうか、ダサいでしょう?女の子なら可愛いですけど」 「君のキャラなら可愛いと思うけどな」 「恐ろしいことを真顔で言わないでください」  霧咲は冗談でもなんでもなかったのだが、榛名には通じなかったらしい。おそらく東京で方言を喋った時に嫌な思いをしたことがあるのだろう、と思って深くは聞かなかった。 「でもお母さんには今でもお国言葉で喋るんだね」 「……母親に東京弁で喋るのって、そっちの方が恥ずかしいから」 「東京弁っていうの?標準語のこと」  単に恥ずかしいだけなのだとしても、母親に合わせてあげている榛名のことを優しいな、と霧咲は思った。同時に、いつもあんなふうに母親に『結婚しろ』とせっつかれているにも関わらず、気持ちを誤魔化さすに自分のことを『好きだ』と言ってくれた榛名に対して、どうしようもない愛しさがこみ上げてくる。 「……霧咲さん」 「ん?」 「忙しいんじゃなかったんですか……?今日、帰るって言ってたような」  母親には説明するのが面倒で『泊まらせる』と言ったものの、実際霧咲は仕事があるから帰らないといけない、と最初に榛名に宣言していた。けれど霧咲は榛名を抱きしめたまま帰る気配はない。それどころか、もう一度榛名の身体をまさぐり始めたのだ。榛名の顔に軽いキスをしながら霧咲は囁く。 「君が可愛くてたまらないから、もう一回シたくなってきた」 「ちょっと……明日仕事なんでしょ?歳考えた方がいいですよ」 「可愛くないこと言うなぁ、嬉しいくせに」 「……っ」  お互いまだ裸だ。そんな状態で抱きしめられて、『可愛い』と言われながら肌をゆっくりと撫でられる。好きな人からそんなことをされて、興奮しない方が無理というものだ。 「君だってもう勃ってるよ。汁も出てきた」 「あっ……!だって、霧咲さんがそんな風に触るからっ」  自身を握り込まれて、ぐちゅぐちゅと上下に動かされる。鈴口もネチョネチョと親指で抉るように触れられて興奮が抑えられない。 「俺に触られると気持ちいいの?」 「……っ……いい……」  今しがた母親と電話をしたばかりだというのに、罪悪感などは全く感じない。感じていたら、霧咲と一緒になんかいない。一緒にいるのは、ただ欲しいから。霧咲がもっともっと欲しいからだ。 「たまには俺にもお国言葉で喋ってよ、暁哉。さっきの君は本当に可愛かったよ」 「はっ、わ……笑ってたくせに!あっ、ぅンッ、それに……っおんなじように喋ってくれないと、むり、だしっ!」 「そうなの?それは教えて貰わないと無理だな……」 「あっ、あ、ね……ベッド、行きたいっ……!」 「ダメだよ、ここでシよう?」  先ほどまで挿れられていたから、指で慣らさなくてもすぐに入りそうだった。それでも霧咲は榛名の後孔に指を二本入れて、グチュグチュと卑猥な水音を立てながら掻き混ぜる。その音は、先ほど霧咲が榛名の中に出した精液が発する音で、ツーッと外に流れてきた。大腿の後ろにヒヤッと冷たい感覚がして、榛名は思わず足を開いた。 「あ、やぁっ、流れてきてるっ」 「何が流れてるの?」 「霧咲さん、の」 「俺にも見せて」  そう言って霧咲は榛名をグイッとソファーに押し倒し、片足を高く上げさせた。明るい照明の下ですごい格好をさせられて、榛名は恥ずかしさで思わず手で顔を隠した。本当は下半身を隠してしまいたかったが、抵抗はするだけ無駄だと分かっている。それに恥ずかしいけれど――榛名は、見て欲しかった。  霧咲に触られて、こんな風になってしまった自分を。浅ましい自分のカラダを、隅々まで。 「暁哉、自分からそんなに足を広げるなんて……いやらしすぎるよ」 「あっ、あん……見て、もっと……俺のやらしいとこ…っ」  榛名は、顔を覆った指の間から霧咲を盗み見る。そこには、これ以上無いというくらい興奮してギラついた目で自分を見る霧咲がいた。それと、猛りに猛った霧咲自身も。 「ははっ!本当に君は、最高だね……」  榛名のナカから先ほど出した精液が全部流れ出たのを確認すると、霧咲は指を抜いた。そして指の代わりに、我慢出来ずにはち切れそうな自分自身をごりっとあてがう。 「ァあッ!は……入って、きたぁ……っ」  挿れるよ、とは一言も言わず、やや乱暴に霧咲は榛名のナカに突っ込んだ。そして根本までぎっちり挿れると、両手で榛名の腰を掴むように持ち上げて、狭いソファの上で強く腰を振りだした。 「あッあッあッ……!あーっ!ココ、狭くてやだっ……!」 「たまには、っ、いいだろ?ベッドの方が激しく乱れる君を見て楽しめるけどね」 「やぁっ!あんっ、ソコッそこぉ!」  前立腺をかすめたのか、榛名が一際高い声で啼いた。本日2回目のセックスが気持ち良すぎるのか、さっきよりも大胆で素直だ。 「ここ?」 「あああッ!当たってるっ、そこ、そこいい……っ!もっとしてっ!突いて!」  今度は余計なことも考えていないようだ。母親との電話で、何か少し吹っ切れたのだろうか。それとも、単に忘れてしまっただけか。どっちでもいい。  とにかく今は、榛名の喉が枯れるくらいに喘がせて、愛されてるのだと安心させてやりたい。何も悩む必要など無いということを、少しでも示してやりたい。 「あ、あっ、も、ダメ、イクっ!!」 「ん、俺も……っ出すよ、暁哉…!」  イク瞬間にぐっと榛名を抱き寄せて、激しく口づけした。少しでも気持ちが伝わればいいと、霧咲は思った。 * 「そういえば、どうして最近そんなに忙しいんですか?」  ソファーで2回戦を終えたあと一緒にお風呂に入り、浴槽に浸かりながら榛名は霧咲に聞いた。榛名のマンションの風呂はそこまで狭くないとはいえ、やはり成人男性二人が入ると浴槽はギチギチになる。普段は一緒には入らないが、霧咲が無理矢理入ろうと言って入ったのだ。  霧咲はこの後に帰るらしいので、少しでも一緒に居てくれようとする霧咲なりの配慮なのだと榛名は解釈した。その行動はとても嬉しかった。後ろ向きに抱きこまれる姿勢で浸かり、肩が少しだけ寒いけど別に構わない。 「あれ?師長さんから聞いてない?」 「え、何も聞いてないですけど…」  それとも自分が知らないだけか。いや、自分は主任だしそんなことはないはず……。 「おかしいな……まあ、まだ先の話だけど。今度この地区で行われるCKD研究会で講演をするんだ、前座だけどね。夕方6時半からだし、透析従事者向けの研修だから是非、T病院からも来れる人は誘っておいで。主催は葛西薬品さんだから弁当も豪華だと思うよ」 「本当ですか!?いや、お弁当じゃなくて講演が、ですけど、すごいじゃないですか!」  透析従事者向けの研修会は多い。主に薬品会社がスポンサーで薬を紹介するために開かれるものだが、参加費は無料な上ほぼ毎回弁当などの軽食や、豪華な時は立食パーティーなどが付いてくる時もある。講演は看護師には多少難しいがとても勉強になるし、何より晩御飯代が浮くので榛名は積極的に参加していた。  たまに薬品会社のMRが直接透析スタッフ向けに透析室で勉強会を開いてくれることがあるのだが、そんな時も必ずと言っていいほど高級なお菓子やお弁当をお土産に持ってきてくれる。これらは他の病棟には秘密の、透析室だけの特典なのだ。 「別に凄くはないよ、大学で勤務してるとそういう話も回ってくるさ」 「そうなんですね……わかりました、その日出勤のナースは全員来ると思うし、MEさんも声掛けときますね」 「強制じゃないけどね。あと多分、来てくれても挨拶はできないと思うけど」 「分かってますよ、遠くから見てますから」  霧咲の講演が聞けるなんて本当に楽しみだ、と榛名は思った。その日はきっと、仕事が休みでも行くだろう。 「失敗しても笑わないでくれよ?」 「失敗とか絶対しないでしょ!」  少し冷えた肩を抱きしめられて、自分も霧咲の首にすり寄る。最初に抱かれたときに考え込んだ悩みは、いつの間にかどこかへ消え去っていた。

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