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第87話 クリスマス、遊園地にて②

 その後も榛名達は、亜衣乃の希望通りにコーヒーカップやミラーハウスなど色んなアトラクションで遊んだ。気付けば正午を過ぎていて、空腹を感じていた。 「まこおじさぁん、亜衣乃お腹すいたの」 「ん、じゃあレストランに行くか」 「こういうところのレストランって妙に高いですよね」  園の真ん中にある建物の、広い食堂のようなレストランに行った。お昼時なので中は込み合っているが、空いている席はちらほらある。さすがメニューも全て子供が好きそうなものばかりで、亜衣乃はハンバーグ、霧咲はカレーライス、榛名はラーメンを食べることにした。注文してからのセルフサービスで、榛名は亜衣乃がお盆ごと食事を運べるかどうかの心配をした。 「亜衣乃ちゃん、大丈夫?俺が持っていこうか?」 「大丈夫だよアキちゃん、亜衣乃落とさないもんっ」 「腕が細いから心配で」  なんだかあぶなっかしくて、見てるだけでハラハラとしてしまう。 「亜衣乃これでもけっこう力持ちなんだよ?クラスじゃ背は低い方だけど……」 「よく食べるしな」 「まこおじさん、アキちゃんに余計なこと言わないでよ!」 「何をいまさら恥ずかしがってるんだ、もうバレてるだろう」  確かに昨日ステーキを食べている時、亜衣乃が一番よく食べていたような……。榛名は思い出してふふっと微笑んだ。  昼食を食べ終わったあと、霧咲が腕時計を見ながら言った。 「亜衣乃、3時には帰るからな?蓉子が4時頃に迎えに来るから」 「はあい……」  亜衣乃は残念そうに返事をした。ここまでは電車で来たのだが、そのくらいの時間に出ないと4時までには帰れないだろう。 「じゃあ、急いで遊ばなきゃね。次は何にする?お化け屋敷でも行く?」  榛名は亜衣乃を元気付けるように、パンフレットを見ながら明るく話しかける。 「亜衣乃、おばけは嫌い……」 「じゃあ……あ、なんか小さい動物園があるみたいだよ。ふれあいランド。うさぎとかヤギとかいるんだって。行ってみる?餌やりもできるって」 「行く!!」  亜衣乃は目をキラキラさせながら言った。そしてごく自然に榛名の手を握ると、早足でその場所へ向かおうとした。  もはや伯父の霧咲よりも、自分によく構ってくれる榛名の方が好きみたいだ。霧咲は苦笑しながら、亜衣乃と榛名の後に付いて行った。 「亜衣乃ちゃーん、こっち向いて笑って?」 「えへっ」  うさぎを抱っこした体勢で、亜衣乃は榛名の方を向いてはにかむように笑った。榛名は携帯を亜衣乃に構えており、何枚も撮っている。 「ふふ、可愛い~」 「今度は亜衣乃がアキちゃん撮るー!」  榛名はすっかり亜衣乃専属のカメラマンになっていた。亜衣乃も榛名の真似をして自分の携帯のカメラで何枚も写メを撮っている。霧咲もたまに撮っていたが、榛名ほどではない。  育った環境の違いだろうな、と霧咲は思った。きっと榛名の両親は写真を撮るのが好きで、榛名の家には小さな頃のアルバムが沢山あるに違いない。  逆に霧咲の家は、そういう習慣はなかった。毎年写真屋に家族写真を撮りには行っていたが、霧咲が大学入学とともに家を出てからはその習慣もいつの間にか無くなっていた。 「霧咲さん、ずっとアルパカと2ショットしてないで……でも撮っちゃおう」 「うん?」  榛名が携帯を向けて、霧咲の写メを撮ったようだった。 「あはは!霧咲さんとアルパカの2ショットってなんかシュールですね」 「可愛いじゃないか」 「アルパカは、可愛いです」 「俺は?」 「ふふっ」  可愛いよりもカッコいいと言ってあげたいのは山々だが、ここじゃ言えないので榛名は笑って誤魔化した。帰ったら言ってあげよう、と思った。 「アキちゃーん!こっちカメがいるよ!なんで水ないとこにカメがいるの?」 「え?ああ、それはリクガメっていってね…」  榛名は亜衣乃が呼ぶ方へと行った。掘立小屋の中に設置されてあるストーブの周りには、様々な動物が固まっている。リクガメや、ブタ、ウサギ、ニワトリなど……。  こんなに近くで動物と触れ合える場所に来るのは久しぶりだが、あまり触る気にはなれない。 「もうまこおじさん!なんでアルパカとばっかり一緒にいるの?こっちにおいでよ、ストーブ暖かいよ!」 「小さい動物が多いエリアは踏みつぶしそうで嫌なんだよ。おじさんは大きいからね」 「踏むとかひっどーい!」 「だからこうやって近づかないようにしてるだろ?」 「あはは」  榛名は楽しかった。亜衣乃は娘というよりも妹のようで可愛いし、霧咲とも一緒に居られる。明日からは仕事だが、夜にはまた霧咲と会える。火曜日は休みなので、明日の夜もずっと一緒に居ることができる。幸せだなあ、と思った。  ――その時だ。 「……なぁ。あれ、霧咲じゃね?」  幼い子供達の中に混じって、確実に榛名達を指していると思われる声が聞こえた。声の方を見たら、そこには小学生の男子4人グループがいて亜衣乃を指さしていた。 「あ……」 「亜衣乃ちゃん、お友達?」  亜衣乃が声を漏らしたので榛名がそう聞くと、亜衣乃はその場に俯いてふるふると首を振った。榛名がもう一度男子たちに視線を戻すと、一人がずんずんと近付いてきた。亜衣乃はさっと榛名の後ろに隠れるが、男子はそんなことはお構いなしに亜衣乃に話しかけてきた。 「おい霧咲!隠れてんじゃねぇよ。お前俺たちがここの遊園地面白いよなって話してたとき、ガキみたいだって馬鹿にしてたくせになんで来てるんだよ!」 「別にいいでしょ」 「よくねーよ!なんかすげー楽しんでるみたいだし、それなら俺たちを馬鹿にしたこと謝れよ!」  彼は子どもらしいイチャモンを付けてきた。どうやら亜衣乃はクラスであまりうまくやれてないらしい。しかし、小学生なんだからガキに違いないのでは……と榛名は思った。勿論、同じ年の亜衣乃が彼らに言うのも間違っているが。  すると亜衣乃は、榛名の後ろから出てきて言い返した。 「ガキにガキだって言って何が悪いのよ、事実でしょ」 「おめーもガキじゃねーかよ!!」 「そうだけど?だから何よ」  亜衣乃はあくまで冷静だった。何かあったら榛名は止めようと思っているが、なんだか口を挟めない。ふと霧咲が立っていた方を見たが、霧咲はアルパカの側にはもういなかった。 (あれ?どこ行ったんだろ……) 「だから、馬鹿にしたのを謝れって!」 「馬鹿になんてしてないし。そっちが勝手に勘違いしたんでしょ」 「いや、だって!……え、違ぇの?」  どうやら亜衣乃の方が一枚上手で、激しいケンカには発展しないようなので榛名はほっと安堵した。すると、亜衣乃に突っ掛ってきた男子の友達がひとり近付いてきた。 「なあタカちゃん、もう行こーぜ。霧咲とはあんまり関わりあいになるなって、俺母ちゃんからうるさく言われてるんだよ」  メガネを掛けた聡そうな男子が、亜衣乃を見て吐き捨てるように言った。

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