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第106話 嬉しいことと、不安なこと②

* 「しゅにん?しゅ・にー・ん!」 「ハッ!な、何!?」 「何って……いきなりぼーっとしだすから、心配しちゃいましたよぉ」 「あ、アハハ……ごめんね」 いつの間にか余計なことまで思い出していたらしい。有坂の声で覚醒した榛名は、火照った顔を誤魔化すように顔をぱたぱたと手で扇いだ。 霧咲からクリスマスプレゼントでペアリングを貰ったことが嬉しすぎて、スタッフが少なくて大変な毎日もなんとかこなせていた。 霧咲は元日の日、再び蓉子と亜衣乃を引き取る件についての話し合いをしたらしい。その日の夜に電話で榛名に報告してきた。 今度は引っかかれなかったようだが、前回蓉子に付けられた傷は生々しく霧咲の頬に残されたままだ。 「お正月ってテレビも特番ばかりで面白くないし、早く終わらないですかね~。霧咲先生はK大の方が忙しくて来れないし、奥本先生は休みだから来ないし、薬局も休みだし!休みのスタッフは多いのに患者さんの数はいつもと変わらないし!連休の勤務ってサイアクですぅ。せめて主任がいてくれてよかったですぅ」 榛名は有坂の愚痴に同意しながらも、苦笑しながら返した。 「それはなにより。でも正月も今日までで終わりでしょ。俺も明日からやっと休みだし」 「お疲れ様ですぅ~」 「有坂さんもね」 お互い、年末年始は毎日顔を合わせていた気がする。既婚や子持ちのスタッフに休みを優先的に譲ることにしているので、独身な限り必然的に年末年始は同じメンツになるのだ。 「なんだか、恋人にプロポーズをされたOLのような浮かれっぷりですね」 「え!?」 榛名の後ろから、同じくずっと日勤だった若葉が話しかけてきた。 「わ、若葉さん!?何いきなり!?」 「プロポーズをされて浮かれているOLのようだと言いましたが……ああ、別に主任のことじゃありませんよ?」 「そ、そう」 この状況でそのセリフが榛名のことじゃない、と誤魔化すのは相当無理があるのだが、それをあっさりと信じて安心する榛名も榛名だ。 若葉はニヤニヤしそうになるのを我慢して、話題を変えた。 「そういえば主任、おせち料理は食べましたか?」 お正月らしい話題に、榛名の精神は平常に戻る。 「いや?一人だしね、もう何年も食べてないかな」 「あら、そーなんですか……てっきりデパ地下とかの豪華なおせちを注文したのかと思いました」 若葉の言葉に、榛名は思わず首を捻る。 「えっと……何でそう思ったの?」 「いえいえ…こっちの話ですので。気にしないでください」 「?」 しかし、来年の正月からは多分霧咲と一緒に過ごすのだろう。お正月気分を味わってもらうために、手作りおせち……はハードルが高いが、せめてお雑煮くらいは作らなきゃな、と思った。もし亜衣乃が居たら、一緒に作ったりするのも楽しいかもしれない。 まだ霧咲とも一緒に暮らしていないのに、3人で生活するのは何故か凄く想像容易くてウキウキした。 しかし、そんな風に浮かれるにはまだ早い事情が榛名にはあった。 『蓉子が君に会いたいと言っているんだ。君に会わせないと亜衣乃の親権は絶対に譲らない、などと言っていてね……。別にあいつの言うことなんか聞かなくてもいいんだけど、話し合いはできるだけ穏便にしたいと思ってるんだ。でも俺は君の意見を一番尊重したい。どうする?』 元日の夜、榛名は霧咲に電話でそう言われた。正直、少し蓉子が怖いと思っている自分もいる。 しかし榛名は亜衣乃の母親代わりになると本人に宣言したのだし、実の母親から宣戦布告的に会いたいと言われて、今更怖気づいて逃げるわけにもいかない。榛名だって、そんな生半可な気持ちで亜衣乃の母親になると言ったわけではないのだ。 『もちろん、いいですよ。俺、4日から二連休ですけど……誠人さんはどうですか?』 霧咲も4日は休みだったので、その日に霧咲の家で、榛名は蓉子と話をすることにしたのだった。

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