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第151話 家族風呂にて

風呂に入りやすいように、三人は部屋で浴衣に着替えた。亜衣乃は大浴場に行き、霧咲と榛名はフロントで家族風呂の鍵を借りにいく。 フロントの従業員によると、今はどの風呂も開いているとのことだった。しかしもう少し後だと、すぐに全部貸切になってしまうらしい。 「大浴場より先に家族風呂に入ろうか」 「そうですね」 榛名は霧咲の提案に頷き、パンフレットを見て入りたいと思っていた風呂の鍵を借りた。 フロントの従業員は終始にこやかな表情をしていたが、男女でもなく、子どもの姿もない成人男性が二人で家族風呂に入るという異様さに何か突っ込まれやしないか、と榛名は終始ヒヤヒヤしていた。そのことを廊下で霧咲に話すと、 「そんなの客の勝手だろう?何か重要な話をするのかもしれないんだし。まあ、安いホテルなら対応も微妙だったかもしれないけどね」 とあっさりと言われた。そう言われればそうだと納得できるのだけど、榛名は霧咲ほど堂々と出来なかった。 周りには霧咲と恋人同士だと思われたいのに、それと同時に世間の目を気にするのは矛盾している。榛名の性格上仕方のないことだとしても、まだ自分には覚悟が足りない証拠なのかな……と少し落ち込んでしまった。 霧咲に捨てられるくらいなら……と、先月はあんなに強く思ったのに。 (俺、こんな体たらくで結婚なんてできるのかな?) 警察に強く言い返せなかったのも、なんとなく気にしている。結局、自分に自信がないのかもしれない。霧咲に愛されている、という確信はあるのに。 「……暁哉?鍵を開けてくれるかい」 「あっハイ!すいません!」 風呂の鍵を持っているのは自分だったことを思い出して、榛名は急いで鍵を開けた。 ちなみに、部屋の鍵はフロントに預けている。先に部屋に戻るであろう亜衣乃に預けてもよかったのだが、大人びているとはいえやはり子供なので失くしたら大変だと思い、霧咲がそう判断したのだった。 榛名が入りたかった家族風呂は、最高級の檜を使用して作られた檜風呂だった。露天でもないし内装が派手なわけでもないのだが、こじんまりとした風呂の中に檜のいい香りが充満していて、如何にも温泉という風情だった。 「うわぁ、すごく気持ちよさそう!」 「やっぱり風呂は檜だねー」 それぞれ思ったことを口にしながら、榛名と霧咲は風呂に足を踏み入れた。 「……それと、久しぶりに二人きりだ」 「えっ?」 霧咲にそう言われて、思わずドキッとする。そういえば、今は亜衣乃がいないのでその通りだ。霧咲とは職場でも会うけれど、二人の時間なんてものは最近はほぼ無いに等しいので、完全に二人きりになったのは久しぶりだった。 「なんだか少しドキドキするね」 「そ、そうですね……」 全くそうは思えないような軽い口調で霧咲は言うが、榛名は本当にドキドキしているのでそのことに気付かない。霧咲はそんな榛名のことを心から可愛いと思い、後ろからそっと抱きしめて榛名の身体を弄りながら、耳元で囁いた。 「まだ4時だけど……いやらしいことする?」 「……してほしい、です」 普段の榛名なら、こんな時間に致すなんてと一応形だけの拒否を示すところだ。けれど、今は旅行先の解放感からか――それとも言い知れぬ不安感からか――霧咲に抱いて欲しくて堪らなかった。誘われなければ、自分から誘おうと思っていたくらいに。 だから後ろを向いて、もう一度自分から霧咲に言った。 「せっかくの、二人きりなので……やらしいこと、してください」 顔を赤く染め、ほんの少し濡れた扇情的な榛名の目に誘われて、霧咲の喉仏がゴクリと上下した。榛名の様子が普段と違うことには気付いている。だから返事をする代わりに、霧咲は榛名の薄い唇にそっとキスを落とした。 榛名はすぐに腕を霧咲の首へと回し、ギュッと抱きつくとそのキスに応えた。 扉を閉めた浴室内に、二人の奏でる卑猥なリップ音が響き始める。 (……気持ちいい……) 互いの舌を何度も絡め合わせて、ついには唾液が口の端から零れてきても、榛名からはキスを止める気にはならない。 「んっ、んっ……ふぅ……クチュ、チュプ」 それどころか、もっとして、という気持ちで霧咲の頭を強く抱き寄せて懇願する。そして霧咲は、その想いに応えてくれる。 キスなんてもう数えきれないくらい何度もしているのに、何回しても気持ちいいと思う。 「んふ、チュプ、レロッ、まことさ……ん」 でもそれは、相手が霧咲だからだ。榛名は霧咲以外のキスで、こんなに感じたことは今の今まで一度も無い。 初めての彼女とキスをした瞬間すら、幼い頃の思い出レベルで思い出すことが出来ない。 全部、霧咲に塗り替えられてしまっているから。 別に今更、昔の恋人との思い出したい出来事など一つも無いのだけれど……。 「……ンッ!」 キスの最中、いきなり股間をギュッと強めに掴まれて驚いた。思わず唇を離して霧咲の目を見ると、霧咲は目だけで笑って見せた。 「君のココ、もうこんなになってるよ。キスだけで興奮した?」 自分のモノが既にガチガチに勃起していることは、勿論気付いていた。けど、改めて指摘されると恥ずかしい。でも否定する理由も無いので、榛名はコクンと頷いた。 霧咲は満足気にフッと笑うと、親指の腹で榛名の先端を刺激してくる。もう先走りまで溢れているのか、グチュグチュという音が下から響いてきた。 「あ、あぁんッ!……誠人さんは、興奮しませんか?」 「どこ見て言ってるの?興奮してるに決まってるだろ、ほら」 霧咲はそう言って、自分の猛った下半身を榛名の身体に擦り付けた。霧咲が勃起しているのだって、榛名には勿論最初から分かっていたが敢えて言ってみたのだ。霧咲が自分にそうしたように。恋人同士の単なる戯れだ。 「ふふっ」 「嬉しそうだね?」 「嬉しいですよ、そりゃあ……」 そう言って榛名も霧咲のモノを握り込むと、今自分がされているのと同じように霧咲の先端を刺激しだした。でも、それだけでは何か物足りなくて。 「ね、誠人さんのコレ、舐めたいです」 無意識ではないけれど、するするとそんなことを口にしていた。

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