171 / 229

第171話 堂島、誤解し誤解される

二宮と山本が揃って部屋に帰ってきたとき、堂島は思わず自分の目を疑った。 「ただいま帰りました~~!!」 山本が矢鱈と上機嫌で、二宮の腕にぴったりとくっついていたのだ。しかも二宮が嫌がっている様子もない。相変わらずのポーカーフェイスで表情が読めない……と言ったほうが正しいが。 部屋に残されていた面々は歌うのを中断して二人の噂話をしていたため、二宮と山本のただならぬ様子(?)の帰還に大いに盛り上がった。 「えっ!?二宮くん、まさかマジで?」 「キャー山本主任、もしかして二宮さんといい感じなんですかぁ!?」 「うっふっふ、ひみつぅ~」 全員がぎゃあぎゃあと盛り上がる中、堂島だけはひくりとも笑っていない。 いや、笑えない。 (秘密!?秘密って……何だよ?) 何よりも解せないのは二宮の態度だ。 何故、山本のいいようにさせているのだろう?そういうキャラだったか?記憶にない。 ずっと見ていたら一瞬目が合ったが、二宮はふいと堂島から目を逸らして、山本に向き合った。 (はあ!?……今、目ぇ逸らした!?) 「山本主に……山本さん、そろそろ腕を離して貰ってもいいですか?」 「はぁ!?ダメに決まってるでしょ!!」 「ハイ」 (山本……さん!?)  冷静に見れば、二宮はただ酔っ払いに絡まれて大人しく言うことを聞いているだけに過ぎない。けど、二人が居なくなってずっとモヤモヤしていた堂島の頭は全く冷静じゃなかった。(酔っているせいもあるが)  ずっと「山本主任」と呼んでいた二宮が、山本を急にさん付けで呼んでいるのを聞いただけで、目の奥が燃えるように熱くなった。 「なんか二人、戻ってきてからめっちゃ親密度が上がってません!?」 「いや、そのですね……」 「うふふ、そうなの。親密度が上がったの。そうだ二宮さん!はいこれ、チョコレート!」 「え、このタイミングで?……どうも……」 「そこはありがとうでしょお!?」 「ありがとうございます」 (チョコレート……?) 堂島は、二宮が山本に渡された薄桃色のリボンの付いた白い紙袋を見て、そういえば今日はバレンタイン合コンだ、と山本がはしゃいでいたのを思い出した。 そしてそれを、二宮があっさりと受け取ったということは…… 「ええっ山本主任、チョコレートまで用意してたんですか!?」 「準備いいー!」 「そういえば今日バレンタインじゃないっすか!山本主任、二宮さんの分だけですか!?」「当ッたり前じゃないのぉ」 「二宮さんズルッ!!この~隠れモテ男!!」 「あはは……は……」 (あっ……そう、そーゆーことかよ……) 無表情で笑う二宮を間近で見ているのに、堂島の冷静じゃない頭はすぐに答えを出していた。 二宮は、自分から山本へ乗り換えたのだと。 (ふざけんなよ……自分が先に手ぇ出しやがった癖に。やっぱり男と付き合うのが無理ならあの時そう言えば良かっただろ……!) 豹変した二宮に激しく抱かれた次の日、元に戻った二宮がくれた優しいキス。 あれは一体何だったのだろう。 あの時確かに……そう、『愛』みたいなものを、二宮から感じたのに。 「クソッ!」 ついヤケクソになって、自分の飲み物はカラになっていたため、近くに置いてあった酒を掴んで一気に飲み干した。 すると、隣に座っていた理学療法士の矢沢があっと声を上げる。 「あっ!?堂島それ俺の酒だぞ!?別に飲んでもいいけど、お前あんまり酒強く無かったんじゃ……しかもそれ、ウイスキーなんだけど!?」 「ッ……!」 氷でだいぶ薄まってはいるが、ビール党の堂島には飲み慣れない味だった。しかも苦手なウイスキー。 匂いを嗅ぐより先に飲み干してしまったのだった。 (うげ、クッソ不味い……うぅ……) しかし、酔っ払うにはそれは最適だった。 「――もしかして堂島、山本主任狙いだったのか?」 矢沢は、ひそひそと的外れなことを堂島に耳打ちしてくる。二宮は山本に連れられてナース集団に取り囲まれており、堂島の近くにはいない。こっちの方を見てもいない。 (なんだよ……デレデレしやがって……) 二宮は相変わらずポーカーフェイス(若干目が死んでいる)を決め込んでいるのだが、堂島には二宮が山本にデレているように見えていた。 一方矢沢は、堂島が否定も肯定もしないので、山本狙いだったと決めつけた。 「当たりかよ、なんでもっと早く言わないんだ?そしたら俺たちだって気を利かせてだなぁ……あ、でも山本主任は二宮さん狙いで、二宮さんはお前の先輩なのか……そりゃ言えないよなぁ」 矢沢が何かブツブツ言っているが、もう堂島の耳には届いてない。 「あの2人三次会は抜けるだろうし……俺たちは男だけでパーっと朝まで飲むか!一旦解散してさ、ナース達は呼ばないようにして……って、堂島?どうした?」 「……ちょっとトイレ行ってくる」 「え、大丈夫か?泣く?着いてってやろうか」 「は?いや、いらない」 「堂島ぁ……」 矢沢の言葉をまるで聞いていなかった堂島は、何故彼が涙ぐんで自分を見送るのかさっぱり分からないが、最早どうでも良かった。 ただ山本にデレデレしている二宮の姿を見たくなくて、一時この場から消えることにしたのだ。どうせ、二宮は気付いていない。

ともだちにシェアしよう!