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 二宮はボトムのポケットからスマホを取り出すと、電話を掛けた。 「……もしもし、堂島?」 『あれ? 二宮先輩早いですね、もしかしてもう解散したんですか?』  今の時刻は21時で、飲み会の解散時間としては早いかもしれない。 「まあ、うん。それで、お前今から出て来れないか?」 『は!? 俺、今風呂入ったんですけど……』 「悪いな。ダチも帰ったし、まだ早いしで久しぶりにデートでも……と思ったんだけど。ダルかったら俺が行くからやっぱいいよ」 『あーもーいいですよ、行きますよ! でも今から準備したら着くまでに30分はかかりますからね、それでもいいんですか!?』 「上出来。駅近くのコンビニで立ち読みしてるから、着いたら電話してくれ」 『了解っす……』  やはり無理を言っただろうか。でも二宮は、今なんだか無性に誰かと酒が飲みたかったのだ。出来たら大切な人と、ふたりで。  二宮は道路脇に咲いているソメイヨシノの存在に気付き、見上げた。街灯の明かりでライトアップされ、なんとなく昼間に見るより綺麗だと思った。  コンビニに行こうと思っていたのに、不思議と目が離せない。二宮は通行人の邪魔にならないよう端に移動すると、そのまま夜桜見物をした。 「――二宮先輩、」  喧噪の中から待ちわびていた声がして、目線を横に流した。そこには少し訝しげな顔をした堂島が立っていた。 「お、来たな。結構早かったじゃねぇか」 「スマホ鳴らしても先輩出てくんねぇから、直接コンビニ行こうとしてたんですけど……何してるんスか?」 「夜桜見てた」 「はぁ……?」 「なんだよその反応は。別に桜を愛でるくらい普通だろうが」 「ま、別にいいっすけど……。時間無くなるから早く行きましょ」 「おう」 「……」  ――堂島は、ここ最近二宮の様子がおかしいことはとっくに気付いていた。友人の結婚式の二週間くらい前から、その直後、そして今日。  きっと自分のあずかり知らぬところで何かあったのだろう。その内容を知りたいけれど、無理に聞き出すことはしたくない。二宮が自分から話してくれるまでは……。 (でも絶対、話してくれねぇんだろうな……)  少し悔しい気もするが、恋人だからと言って全てを話す必要はないし、自分だって二宮に言えないことのひとつやふたつはある。多分二宮が抱えているものの方が、ずっと重いのだろうけど。  最近二宮は暗い顔で深く考え込んでいたり、かと思えば自分に対してベタベタしてきたり激しく求めてきたり、急に『好きだ』とからしくないことを言ってきたり――今まで堂島が知っていた二宮とはかけ離れた態度を取っていた。  堂島を抱くことで、気持ちを紛らわせていたのかもしれない。二宮を悩ませている原因が自分じゃないのならば、そういう立場でいられることは正直嬉しい。  そして今日いきなり呼び出してきたのも、きっとまた何かあったのだろうと予想していた。でないとこの情緒もデリカシーも人並み以下の恋人が、一人で何十分も感傷的に夜桜なんかを眺めているはずがないのだ。  そんな二宮も、堂島の勝手な思い込みかもしれないが……。 「――二宮先輩」 「ん?」 「どこ行くんすか?」 「あー……特に決めてねぇんだよな。お前今腹減ってる?」 「いや、普通に晩飯食ったんで」 「そっか。俺、山芋鉄板しか食ってねえから結構腹減ってて……居酒屋でいいか?」 「どこでもいいですよ」  今の二宮の言葉から、今までほとんど食べずに話をしていたということが分かった。誰と何を話していたのだろう。  今すぐ聞くことは、できないけれど……。 「――二宮先輩」 「ん?」 「コンビニで適当に何か買って、ホテルに行きませんか?」 「え!?」  堂島から誘うのは、実は初めてだった。反応が気になるが、敢えて二宮の顔は見ずに捲し立てる。 「先に俺を食って、腹いっぱいになればいいじゃないっすか……」  自分でも何を言ってるのか分からない自信はある。けれど、今の二宮に必要なものはなんとなく食べ物じゃない気がして……。  何があったのかは聞けないけれど、せめて甘やかしたいと思ったのだ。情緒もデリカシーもない、不器用だけど自分には優しい恋人を。    ガシッ! 「へ?」  いきなり後ろから腰を抱かれて、素っ頓狂な声が出た。二宮の身体が密着していて、そのままずんずんと押されるように歩く。 「ちょ、ちょっと先輩!? 足早……ッ」 「お前の気が変わらないうちに、さっさと行くぞ」 「コンビニは!? ついでに薬局も!」 「……寄る! けど、買い物はすぐに済ませるからな」 「はーい……」 (俺から誘ったんだから、別に気が変わったりしねぇのに)  珍しくせっかちな二宮の態度に、堂島は思わず声に出して笑いそうになったが、口角を上げるだけにとどめた。二宮は優しいけれど、機嫌を損ねたらそれはそれで面倒くさいので……。 * ホテルに着くと、二宮はシャワーも浴びずに堂島を抱いた。 部屋に入った瞬間からドアに押し付けて激しいキスをして、思わず腰が抜けかけた堂島を抱えてベッドに押し倒し、服を脱がせる手間も惜しむように性急に身体を弄った。 「あっ、先輩、激しっ……!」 「悪い、早く繋がりたい」 「はぁっ! あっ、なるべく慣らしてくださいよ……っ!」 「当たり前だろ」 「ンンーッッ! はむっ、むちゅ、チュクッ、じゅう……」 何度もキスをして唾液を交換し、すっかり敏感になった胸の飾りをコリコリと強めに弄りながら、気分を高めていく。  途中で寄った薬局で購入したローションを手に取り、つぷりと指を挿れて少しずつ慣らしていく。二宮の剛直を何度も受け入れてきた堂島のカラダは前立腺を優しく擦られるたびに、ゆっくりとひらいていく。 「はあ……ッもう、大丈夫そうっす……挿れてください……」  堂島の許可を得た二宮は、既にはち切れそうな自身を取り出して素早くコンドームを着けると堂島の秘所に宛がった。 「挿れるぞ……」 「ンッ、はぁ……っ」  先端をグリグリと押し当てて堂島の反応を見たあと、そのままズププププ……と一気に根本まで挿入した。何故こんなに興奮しているのか、自分でも分からないくらいだ。 「あ、はあぁぁ……ッ!」 「キツ……ッ、堂島、痛くないか?」 「だ、だいじょぶ、れす……ッ! 先輩のおっきいから、挿れるだけで擦れてキモチイイっ……!」 「おい、あんま煽んな」 一つ分かっているのは、堂島が二宮のために──多分慰めるために、こうして自分から身体を開いてくれているということ。 何があったのか、誰とどんな話をしていたのか一切聞かないくせに、こうやって甘えさせてくれる恋人にますます愛おしさが募る。  自分の方が年上だから、もっと甘やかしてやりたいのに。   めちゃくちゃにしたい。でも優しくしたい。  ――とにかく、堂島が欲しい。  挿入がいつもより早かったので、慣らすためにしばらくジッとしていたが、逆にキュンキュンと締め付けられて我慢できなかった。  堂島の腰を掴んで、後ろからガンガン肌と肌をぶつけ合う。 「あああッッ!! 急に動かな……ッひぁあ!」 「お前のナカ気持ち良すぎて、腰止まんねぇ……!」 「ぁぁッ! そ、んなこと言われたら怒れないでしょ……ぁッ! ソコ気持ちいい……っ!!」  堂島はM気質なので――自分がそうさせてしまったのだが――激しめに抱いた方が乱れまくって可愛い、と二宮は思う。でもできるだけ優しくしたいという気持ちもあり、自分の中の天使と悪魔がせめぎ合っている。(多分、ウイスキーを飲むと悪魔の部分が全て表に出てきてしまうのだ)

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