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1-2 いきなりピンチってある意味反則じゃないか?
力が抜けたのを感じたのか、拘束している蔦が少し緩まった。そのままゆっくり俺の体は下に降りてくる。現在地表から2メートル以上。どんな空中プレイだよ。
けれど次に俺はとんでもないものを見た。ラフレシアの中央が割けて、そこからどう見てもすさまじいものが見えた。男の腕くらいの太さと長さのあるペニスがにょっきり生えている。色は黄色と緑。あまりにショッキングで思考が停止した。
「まさか…」
いつの間にか口を犯していた蔦もなくなって、俺はようやく意味のある言葉を口に出来た。気のせいでなければ、俺はその凶器のようなペニスへと落ちていっている。
「嘘だろ…」
こいつ、俺を食うつもりだ。でも、そっちかよ!!
「やめろ! 離せぇぇ!」
何で男の俺がこんな目に合わなきゃならない。童貞だぞ。女子だと処女だぞ! 大事にしとくのもなんだが、こんな化け物相手に散らしていいもんじゃないだろ!
「第一メルヘンなお花に巨根ってぶち壊しだろ!!」
ふかふかお花にお姫様が相場だっての! 全裸男の穴に巨根突っ込んで何がしたいんだこいつ!
抵抗してもやっぱりダメだ。暴れたら締まってきて、痛くて辛くなった。泣きそうになりながら何度も何度も叫んでも、森の中に消えていくばかり。助けてくれる人はいない。
涙がこぼれてどうしようもない。俺は何の呪いでこんな目にあってる。真面目に過ごしてきたっての。甘酸っぱい恋愛しかしてないっての。息子の筆卸が化け物ってひどくないか。ってか、俺って何でこんなことになってるんだ。
「…筆卸じゃなくね!」
俺の息子は放置だろ、どう考えても。それって筆もおりてない!
「誰か! 誰か助けて、お願い! 誰かぁぁぁぁぁ!」
その時、何かが俺を捕まえていた蔦を一刀両断にした。俺は急に空中に放り投げられる。頭から真っ逆さまに落ちているけれど、高さ的に2メートル弱くらいまだある。
あ、死んだ。
でも、化け物にヤリ殺される事を考えればこれも慈悲なのか? 随分な神様もいたもんだ。
そう思って力の入らないまま、なすがままになっていると、誰かが俺を受け止めてくれた。温かい体温と、人と思える手を感じる。その人は俺を抱えて軽々と着地すると、俺の顔を覗き込んだ。
「大丈夫か」
綺麗な人だった。短い黒髪に、同じく黒い切れ長の瞳。端正な顔立ちで、目尻には金色のアイシャドーが入っているみたいだ。それに、前髪の一部も金色だ。
その人は俺を抱えたまま、件の植物を睨んだ。蔦を切られて暴れていた植物が新たな蔦を出してこっちに来ている。俺は怖くて身を強ばらせていた。
『ライトニング!』
声が少し不思議な感じで聞こえ、稲妻が植物を打ち付けた。迫った蔦、そして植物の本体らしいあの花に。花は電撃を受けて燃え上がり、ブスブスと音を立ってて動かなくなった。
これは本格的に、異世界っぽい。
いくら何でもこれが自分のいた世界とは考えられない。もしそうなら、よほど金のかかった悪趣味なドッキリだ。でもそんな事をするメリットなんてないだろ。こんだけひん剥いたら放送コード確実アウトだよ。
「何だってこんな危険な森に、こんな軽装でいるんだ」
男は咎めるような瞳で俺を見下ろす。そんな事を言われても、俺だって理由が聞きたい。
「大丈夫か?」
「あぁ、はい…。あの、有り難うございます」
頭がまだトロトロだ。実は体の熱がまだ去っていない。尻の奥がジンジン甘く疼いている。
「あっ、俺、月白誠っていいます」
「ツキシロマコト? 言いづらいし、知らない名だな。どの種族なんだ?」
「種族? 人間…ですけど?」
22年生きてきて種族を聞かれる日が来ようとは。俺はなんだか可笑しかった。
けれど目の前の人は疑問そうに首を傾げている。俺の体をくまなく見回して…恥ずかしいから見ないでほしい。
「人間だとしても、そんな名では…。それに人間なら、この森の危険を知っているはずだ。迷いの森に冒険者でもない、しかも軽装の者が入ればどうなるか」
それは身をもって知りました。そして俺としては、ここがどこかをまず知りたい。
「あの、つかぬ事をお伺いしてもいいでしょうか?」
「なんだ?」
「ここ、どこですか? 日本なんて、地名じゃないですよね?」
まぁ、「そうです」って言われても信じないけれどね。
男は更に疑問そうに首を傾げる。実はこの間、ずっと俺はお姫様抱っこだ。
「ここはアウンゼール王国とリトラダール王国の間にある、迷いの森だ。B+の大型モンスターや食肉植物が多く生息する危険地区で、第二級危険区域に指定されている」
「知らない……」
どこだよその国。そしてサラッと怖いこと言ったよこの人。食肉植物って何。
「知らない? 大きな国だから、どんな小さな子供でも知っている国だ」
困惑するような様子でそう言った男は、ふと俺をマジマジと見て、「まさか…」という様子で問いかけた。
「君は、異世界からきたのか?」
あぁ、その単語が出てきたか。
予想はしていたが、聞くとやっぱりショックだった。けれどおそらく認めざるを得ない現象が起こりまくってる。モンスターに人食い植物に魔法だ。
俺はそんなにファンタジーな脳みそはしていないつもりだけど、普通だと思っているけれど、目の前で起こった事を否定する事もできない。
「あの、多分?」
「そうか、それなら納得だ。どうりでこんな危険な場所に、武器も防具も見当たらない一般人がいるはずだ」
男は理解したように黒い瞳を優しげに緩め、微笑んでくれる。なんていうか、ほっとするな。体温って大事。
落ち着いたらなんだか体の奥がジクジクと疼いた。思わず息を詰めると、男は俺を気遣って様子を聞いてくれた。
「どこか痛むか?」
「痛くは…でも…」
明確に言葉にするのは恥ずかしいです。でも俺は一糸まとわぬ姿。全身弛緩して動かせない。だから当然、このイケメンの腕の中で俺の息子は主張しているわけだ。
「タネヤドシの樹液を飲まされたのか。辛いだろうが、少しだけ我慢しろ」
俺の体を一度地面に下ろし、ウエストポーチから厚手のマントみたいなのを引っ張り出した男がそれで俺をくるむ。肌寒さがなくなった。そして何より恥ずかしい姿を隠す事ができた。
そうすると再び俺を抱き上げ、男はとても軽い足取りで俺をどこかへ運んでいった。
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