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2-1 ユーリス・フェン・フィアンサーユ

 俺が連れてこられたのは、そこそこ綺麗なロッジだった。ちゃんと床にも木材が使われている。ベッドがいくつかと、暖炉に薪。キッチンなんかもついている。 「珍しい、今日は誰もいないのか。まぁ、だが好都合だな」  そう言った男は俺を抱え上げたまま、奥にある扉を開ける。そこは脱衣所だろう。棚に籠が入っていて、衣服を入れるような感じだ。  男はそのままズンズンと奥の扉を開ける。そこは木製の広々浴槽のある温泉だった。  俺はそこに丁寧に下ろされた。湯が温かい。なんだかとっても安心する。 「ここは薬泉が出るんだ。軽い怪我や疲労回復、それに解毒の効果がある」 「解毒?」 「君が飲まされたのは、タネヤドシという食肉植物の樹液だ。あれは酷い催淫作用がある。ここの温泉はそうした毒を解毒してくれる」  説明を聞いて、俺はとってもほっとした。徐々に体が楽になるような気がしたからだ。 「ほら、これも飲め」  差し出されたコップからはほんの少し湯気が出ている。飲んでみるけれど、白湯っぽい。 「ここの湯を水で割ったものだ。その様子だと口の中にも出されたんだろ? 飲めば体内に入った毒を早く解毒できる」 「有り難うございます」  見ず知らずの人にこんなに親切にされるなんて。俺は本当に心からこの人に感謝いた。 「礼なんていい。だが本当に、間に合って良かった」  穏やかな様子で微笑んだ男はそのまま離れていく。そして自身も衣服を脱いだ状態で、温泉に浸かってフッと息を吐いた。  なんていうか、凄く立派な体だ。プロレスラーやボディービルダーみたいな屈強って感じではないけれど、程よく筋肉がついていて引き締まって、腹筋割れてるし。 「そういえば、名乗っていなかったな」 「え?」  思わず見とれていると、男がそんな事を言った。確かに名前、聞いてなかった。 「俺はユーリス、竜人族だ」 「……は?」  竜……人族。漢字これで合ってる? って、知らないよ? 字面からすると、この人って正確には人じゃない? 「あぁ、君の世界には存在していないのか?」 「はい。あの……人以外見た事ないです」  素直に言うと男、ユーリスさんは驚いた顔をした。だからこそ、もの凄く嫌な予感がした。 「あの、もしかしてこの世界って、色んな種族がいたりしますか?」  人間を知っていたから、そういう種族がいることは間違いない。けれど、他ってなんだ。 「この世界には沢山の種族が生活している。君と同じ人間も多いし、あとは獣人」 「獣人!」  もしかして耳と尻尾のある人達ですか! 「獣人は多いな。まぁ、その中でも種族があって、特性や耳の形なんかは違うが」  よしよし、俺の想像の中でもこれはまだ大丈夫。そういう漫画やゲームも知ってる。ここまではまだ脳みそバンしない。 「後は、俺と同じ竜人族。竜が化身している一族で、竜の姿を取る事もできる」 「竜……でも、見た目はユーリスさんみたいに人間?」 「あぁ、そう考えていい。見分けるなら、目尻の金紋と金の髪だ」  目尻のこれはメイクじゃなくて、そういう模様らしい。なるほど、注意して見れば分かる。 「後は天人族」 「天人!!」 「背中に大きな翼がある。獣人にも鳥族はいるが、天人の翼は白一色で大きい。たたんでも膝裏から踝あたりまで羽の先があるからな」  天使か。天使なのか! 「後は魔人族」  魔族までいた! 「奴らとはあまり会うことはないだろうな。会ったとしてもトラブルになる事が少ない。奴らはみな紳士的で、争いを好まない。だが、怒らせると怖いぞ。奴らほど魔力の高い一族はないからな」 「魔族なのに紳士で争いを好まないって」  俺の魔族に対する認識が壊れた瞬間だった。 「あぁ、そういう一族だ。見た目でも分かりやすいな。奴らは全員が男で、頭には二本の角がある。形状はバラバラだが。あと、細い尾がある」 「男しかいないの!」 「そういう種族なんだ」  それって、絶滅するじゃん。え? ってことは、子供とかどうしてんの? 「あと…」 「ちょっと待って! あの、男ばっかりってことは、子供ってどうしてるんですか? 異種族の女の人に産んでもらうとか」  慌てて疑問を口にすると、ユーリスさんは首を傾げる。あっ、また嫌な予感が。 「男でも子は産める。別に女性に頼らなくても平気だろ?」 「……平気じゃないですぅ」  つまり、この世界って凄い。男と男で成立するってことか? 体の構造どうなってんの? 男ってどこで子供育てんの。え? って事は同性婚普通なのか? 「マコトの世界では、男は子を産めないのか」 「産めません」 「結婚は?」 「一部そういう人はいますが、まだ一般的ではないです」  俺の常識、さようなら。こんにちは、非日常。 「そうか、それでは戸惑いは大きいだろうな。気をつけた方がいいぞ、マコト」  気遣わしい視線を向けられて、俺は素直に「そうします」と答えた。

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