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3-3 種族と結婚とあれやこれや

「あの、男同士で子供って、どうやって作るんですか?」  俺の中での一番衝撃って言えば、これだ。種族の問題はこの際いい。聞けば一応みんな人間の形だ。それほど抵抗ない。けれどこの問題については違和感もあるし疑問も多すぎる。  ユーリスさんはマジックバッグから小さな瓶を出した。風邪薬とかが入ってそうな瓶の中に、白い錠剤が入っている。それを一つ手に取ると、俺の手に置いた。 「この薬を飲むんだ。同意のうえで誓いを立てると薬の色が変わる。同性で、身体的な変化を望む側がこの薬を飲むと生殖器が変化して一時的に子を成すことができる。その状態で交われば、上手くいけば子を宿す事ができる」 「うわぁ…」  手の中にある錠剤をマジマジと見てしまう。こんな小さな薬一つで、とんでもない事になるってことか。 「ちなみに、その白い錠剤は飲んでも無害だ。何の作用もなく体外に排出される」 「同意して、誓いを立てるって?」 「手の平に薬を乗せ、それに手を重ねてキスをする。互いに好感を持って子を望む意志が多少なりともあるなら、薬が反応してピンク色になる。それを飲むと臍の辺りに紋が浮かぶ。これが、相手を受け入れる準備が出来た証だ。効果は一日程度で切れる」  お、意外とちゃんとしてる。ってことは、少なくとも望まない相手との間に子供ができるってのは回避できそうだ。 「レイプとかで子供が出来る事はないんですか?」 「全くないとは言えないが、あまり聞かないな。相手を気絶させてこの儀式をしても、意識がない時点で薬は反応しない。脅して無理矢理も、薬が拒絶を感じ取ると反応しない。違う相手との間で儀式をして、その薬を飲ませたとしても儀式の相手以外では薬が反応しない」 「なんか、安心しました」 「子は神聖にして尊い。望まぬ命が生まれない為なんだ」  そう言いながら、ユーリスさんはとても複雑そうに目を細める。ちょっとだけ、泣きそうな顔だ。 「あの、何か辛い事があったんですか?」  この話題からの悲しい事だと、恋人とすれ違ったとか…もしかして子供を失ったとか? まだ若そうなのに、苦労しているんだろうか。  でも、ユーリスさんは静かに首を横に振って、気苦労の絶えない表情で溜息をついた。 「実は、竜人族は出生率が悪くて、どんどん数が減っているんだ」 「えぇ!」  まさかの絶滅危惧種。それってかなり大変な事態なんじゃないのか? 「だって、この薬があれば男でも女でも子供が出来るでしょ? なのに絶滅しそうなんですか? ユーリスさん、凄くいい男なのに」 「いい男か。それは素直に嬉しいが、問題は深刻なんだ。竜人族はそもそも、子が産まれづらい。核との結びつきが悪いんだ。上手く受精しないばかりか、したとしても腹に留まれない事が多い。上手く着床したとしても、その後流れる可能性が大きくてな」 「そんなに?」  なんか、もの凄く深刻そうだ。目の前の人が五歳くらい年を取ったように見えるくらい、苦労が多そうだ。 「それに、竜人族は受け入れる側からはとても不人気なんだ」 「どうして?」 「あれが大きくて、受け入れるのに苦痛が伴う。特に人間は体が小さいから、受け入れるだけで流血沙汰なんてことも多い。俺達としては数の多い人間に子を宿して貰いたいんだが、相手に苦痛を強いるのもな」  流血沙汰になるほどの大きさ…。  俺の中であの凄い物が蘇る。あの花も巨根だった。なんせ腕ぐらいの太さがあったんだから。  でも確かに、ユーリスさんの体格を考えると大きそうだ。しかも種族違いだ、想像ができない。温泉一緒に入ったけれど、そこは見てなかったな。俺も毒とか驚くべき世界でそれどころじゃなかったし。 「他にも、これは俺達側の問題なんだが。相手の匂いが大事なんだ。たとえどんなに好いた相手でも、どんなに見目のいい相手でもこの匂いが合わないと勃ちもしない。まったく欲情できないんだ」 「そりゃ…数も減るよね…」  そもそも出生率悪いってのに受け入れ困難で更にえり好み。もう滅んで下さいとしか言いようがない。 「まぁ、出生率でいけば問題のある種族は多い。天人族、魔人族、エルフも出生率が悪くて同じように問題を抱えている」 「そんなに! 大丈夫かよ、この世界」  人間の形をしている一族が絶滅危惧種って、なんか切ない。 「まぁ、寿命がかなりあるからな。竜人族は平均で800年は生きるし、天人族も同じくらい。魔人族は1000年は生きるし、エルフでも500年は」 「ちょっと待って! そんなに生きるの!」  60そこそこで健康寿命が失われる人間と比べると、えらい寿命の差がある。人間短命すぎないか。 「俺で今、200歳を超えたくらいだ。ようやく一人前といったところだ」 「俺、今22歳です」 「あぁ、そのくらいだろうと思った。見た目や肉体的な事では、ほぼ同い年だ」  こんなに違い過ぎる同い年もあったもんだ。 「まぁ、そのくらい寿命があるから、その間には一人くらい子供が抱ければ御の字だな。一生抱けない者も少なくない。だが、俺の場合は事情が違って、必ず子を残さなければいけない」 「大分無茶ブリっぽいですけど、どうして?」 「俺は竜人族の国、ジェームベルトの王族の一人だ。黒竜族の王子だが、他に兄弟がなくてな。これで俺に何かあると、黒竜の王家が途絶えてしまう」 「……えぇ!」  滅亡寸前じゃん! ってか、王子様かよ! まぁ、確かに高貴っぽい感じはあるけど、まさかだろ。  苦笑したユーリスさんは、何だかとっても複雑そうだ。まさかの婚活通り越して妊活中でしたか。 「冒険者をしながら世界中を回って、俺の子を産んでくれる相手を探しているんだが、難しくてな。何人か名乗り出てくれたが、定着してもくれなかった」 「切迫した状況は理解できましたが、なんて声をかけたらいいんだか…」  妻を探して三千里? 問題は妻の姿が未だ見えないことだろうな。  それにしても、子供を産んで欲しいと言われて何人か名乗り出るって凄いな。まぁ、相手は王子様だからか。しかもこんないい男が相手だ、いいって言う人もいるのかな。 「のんびりと、根気強く探すしかないさ。あまり焦って動き回るのも、少し恥ずかしい」 「ははっ、ですよね」 「マコトは、どうだ?」 「ん?」  その「どうだ?」はどういう意味でしょうか? 「抱き上げた時に感じたんだが、マコトはとてもいい匂いがした。柔らかくて甘く、それでいて欲情を感じる匂いだった。だから、もし君がいいと言ってくれるなら一度試さないか?」 「あの…それは俺の色んな感覚が付いてかないです…」  男とセックスとか考えてもいない世界から来た人間なんで、勘弁してください。男が妊娠ってのも何の冗談かと思ってます。しかもユーリスさんの場合はガチで子供希望でしょ。避妊とかする気絶対ないでしょ。怖すぎます。 「残念だ。まぁ、無理強いをしたりもしない。出来れば愛して、大切にしたいから」  そんな風に言って寂しそうに笑う人を前にすると、妙な罪悪感がある。  絶対にいい男だ。愛情だってありそうだし、大事にしてくれそうだ。将来も安定、優しくて親切だ。多分幸せにしてくれるんだろう。  そうは思うもここで「いいですよ」なんて言えるほど簡単な話ではなくて、俺は色んな事を思いながらもしばらくは「無理です」を通そうと決めた。

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