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5-2 王都を目指してどこまでも

 もの凄く視界が高い。それはそうだ、自分の身長よりも高いんだから。高所恐怖症ではないはずなんだが、リアルな高さで妙に安定せず不安だ。 「馬に乗った事はあるのか?」 「いえ、初めて。あの、どうやってバランス取ればいいんでしょう」 「内股で締めて体を固定するといい。無理そうなら、俺の体に寄りかかっていい」  言われたとおりにしてみると、多少姿勢が保てた。だが、多少だ。それに普段使わない筋肉は疲れやすい。すぐに筋肉痛になりそうな感じがした。 「ほら、寄りかかれ」  そう言われ、片手で手綱を握ったユーリスさんの空いている手が体を少し後ろに引く。腰に回った腕を少し引かれて安定すると、安心した。 「あの、これって不自由だし、迷惑じゃ…」  密着した体に少しドキドキする。逞しい腹筋が背中に当たっている。 「このくらいで不自由なんて感じていない。最悪、手綱を引かなくても操れる」 「そんな事できるんですか!」  驚いたけれど、映画とか思い出す。確かに手綱を放して戦っているシーンとか、けっこうあるな。 「それにしても、いいユニコが借りられて良かった。こいつは良馬だな」  とても満足そうなユーリスさんが穏やかに言う。確かにファイはとても美人だと思う。綺麗な毛並みにエメラルドの瞳をした、穏やかな顔立ちの馬だ。 「王都までこいつの世話になるからな」 「王都までファイに乗ったら、またあの町に返しに行くんですか?」  俺はふと浮かんが疑問をぶつけてみた。  だって、借りたって事は返さなきゃいけないでしょ? ここから王都まで乗って、用事が済んだらまた返しに行くのかな?  そんな事を思っていると、ユーリスさんが首を横に振った。 「その必要はない。こいつは元々、誰かが王都の馬屋で借りてあの町まで乗ってきたんだ。俺達はこいつを王都の元の馬屋につれていく」 「つまり、俺達が返すんですか!」  なんと! って、これがこの世界の常識か? 「馬屋は個人経営がほとんどだが、国内の馬屋は全てギルドに所属して繋がっている。国内ならどの馬屋で馬を借りて目的地まで乗っても、乗ってきた者が元の馬屋に返しに行くことはしない。一定の期間で馬屋の者が元の店に返しに行くんだ」 「乗り捨てというか、丸投げなんですね」 「その分、それなりの金額は出している」  利用者としてはもの凄く有り難いシステムだ。でも、それなら俺達が返しに行くんじゃなくてさっきの店主が返しに行かなくちゃいけないんじゃ? 「あの、そのシステムなら俺達が返しに行くのは変なんじゃ?」 「返しにいく場所と、借りたい者の目的地が一致していれば、馬を元の馬屋に戻す事を条件に割安で借りられるんだ。店としては人件費や襲われるリスクを減らせるし、借りたい者にとっては経費が抑えられる。ギブアンドテイクだ」  なるほど。わりと上手くできてるもんだ。 「あの、どの店の馬かなんて分かるんですか?」 「ファイが首につけているメダルがあるだろ? それに、どの町のどの馬屋の馬かがデータとして入っている。名前、年齢、体重なんかもな」 「このメダルを読み込めば、分かるんですか」  首から少し太めの金のチェーンがかけられ、その先端には金色のメダルがついている。装飾品かと思いきや、もっと大事な役割があったのか。 「盗難防止にも一役かっているな。このメダルは所有している馬屋でしか外せない。盗んだところでバレるんだ」 「うわ、それも凄い! そっか、大事だな」  それにしても、馬泥棒なんているんだな…。 「今日はこれからもう一時間ほど走らせて、一度休憩にする。湖の畔で昼食を食べながら一時間ほど。夕方には次の町が見えてくるだろうから、そこで一泊だ」 「分かりました」  湖の畔でランチなんて、優雅なピクニックみたいだ。俺はほんの少し浮かれた気分でユーリスさんに体を預けていた。

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