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5-3 王都を目指してどこまでも

 湖の畔は涼しい風が吹いている。丁度日差しが強くなってくる頃に俺達は休憩した。  ユーリスさんがウェストポーチの中から日よけのタープを張っている間、俺は木陰にへたり込んだ。慣れない乗馬に太ももも腰も限界だった。ついでにケツも。  俺に寄り添うようにファイがいて、労るように頬を擦り寄せてくる。それが可愛くて片手で鼻先を撫でると、ファイも嬉しそうに目を細めた。 「ユニコが懐くなんて、珍しいな」  ユーリスさんがタープを張り、ついでに簡易のテーブルや椅子もセッティングしてくれた。手には水の入った器と、ファイのご飯がある。馬屋で餌も購入するのだ。 「ユニコは警戒心が強く、自尊心も強い生き物だ。馬屋にいるから穏やかな気性だとは思うが、気に入るかは別問題だ」  そんな話を聞きながらも、ファイは俺の腕に長い首を擦り寄せている。俺は求めに応じ首を撫で、優しく毛をすいた。 「心の綺麗な者にユニコは心を開くと言われている。マコトは心が綺麗なんだろう」 「そんな事、ないです…」  素敵な笑顔で言われるには、恥ずかしすぎるお言葉です。  何にしてもまずは腹ごしらえ。俺はポーチの中から昼食を出した。  おにぎりの具材は鮭とおかかと梅。煮物とキュウリの浅漬けと焼き魚、そして味噌玉。これにお湯を注ぐと簡易味噌汁になる。それらを並べると、ユーリスさんの瞳が僅かに輝いた。 「凄いな、こんな立派な食事が食べられるなんて」 「そんな、たいした事は。あの、足りなかったらまだ出しますので」  褒められた事が純粋に嬉しい。思わず照れて赤くなってしまった。  満面の笑みで食事をするユーリスさんの胃袋に、食事はどんどん吸い込まれていく。ここまで食べてくれるとなんて気持ちがいい。  美味しくご飯を食べてくれる人が好き、という女子の気持ちが分かる。 「マコトの食事は本当に美味しい。どれもここらじゃ食べたことのない味だが、どれも素朴で温かい味がする」 「そんなに褒めないでください。なんか、恥ずかしいですから」  これ以上褒められると流石に、小さくなって消えてしまいそうだ。  食事の後は少し横になって休憩する事にした。木陰に座り毛布をかける。  側にはユーリスさんがいて、ファイもいる。念のために木の周辺にはモンスター対策の結界が張られた。 「慣れない馬で疲れただろ。痛くないか?」 「ははっ、ちょっとだけ」 「回復かけようか?」 「いえ、そんなには!」  あれこれして貰うのは心苦しくて、俺は断った。少し寂しそうな顔をするユーリスさんの側で寝転がる。草の香りは妙に落ち着く。毛布もいい感じに暖かい。  疲れたのもあって、俺は簡単に眠りに落ちた。  気づいた時、俺は馬上で揺られていた。顔を上げるとユーリスさんの黒い瞳とぶつかる。とても優しい、柔らかな表情をしている。 「目が覚めたか」 「あの、俺…」 「疲れていたようだ。起こすのも忍びなかったからな」  そう言って笑ってくれた人が指を差す。その先には次の町の城壁が見えていた。  町は前日の町よりも少し小さい感じだった。馬屋にファイを預けて宿に向かう。ここにも馴染みの宿があるようで、ユーリスさんはそこへ俺を案内した。  そこで俺は初めて獣人というものを見た。

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