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6-1 モンスターなんて怖くない!なんて嘘です
町を発った翌日は野宿になった。
ここは急いでも次の町までは距離があるそうで、仕方がないとのことだ。その代わり条件のいい場所を確保して、早いうちにテントを張ることにした。
なんと、あのウエストポーチの中にはテントも入っていたのだ。
テントはもの凄く広く感じた。170センチの俺だと五人くらい寝転んでも快適な空間だ。2メートル近いユーリスさんでも三人くらいは大丈夫。そのくらい広い。
寝るときはここに薄手のラグを敷き、ブランケットで寝ると言う。今は季節的にその程度で大丈夫なのだそうだ。
敷かれたラグを踏んでみると、毛足が長くて柔らかくてふかふかだ。元々ふかふかの草地の上だから寝心地は悪くない。下からの冷気もこのラグが防いでくれる。
ご飯はテントにくっつけるようにして作ったタープの下に簡易テーブルセットを作った。
俺はその上に料理と飲み物を出していく。今日は白身魚のスパイス揚げとサーモンのサラダ、スープもなんと漏れない容器に冷製スープを入れてきた。湯むきしたミニトマトが浮いている。
これに買い込んだパンを添えて本日は彩り鮮やか。ユーリスさんは足りないかもしれないから、褒めてもらった唐揚げを出してみた。
テーブルを見たユーリスさんは分かりやすく嬉しそうな顔をし、「美味しそうだ」と言ってくれた。
程なく「いただきます」をして食事を始める。
本当に、ユーリスさんの食べっぷりを見ると気持ちがいい。美味しそうに沢山食べてくれる。
俺の料理は全部家庭料理でそんなに手の込んだ物はないのに、満足してくれる。俺に料理を教えてくれた婆ちゃんも、まさか異世界でこのスキルが役立つとは思わなかっただろう。
食事を終えて、俺は使った食器を洗う。
近くの川から水を汲んできて、小さな鉱石のような物をスポンジにこすりつけると直ぐに泡立つ。これがこの世界の石鹸であり、食器洗い洗剤なのだ。もの凄く長持ちするし、これは川や地面に流しても環境に優しい。むしろ栄養素になるそうだ。
軽く洗って拭き上げてポーチの中に。その頃には周囲に結界を張っていたユーリスさんも戻ってきた。
「タープとテントを囲うように結界を張ってきた。これでモンスターが現れても安全だ」
「有り難うございます」
俺の目には見えないけれど、そういうものが張られているらしい。ファイはタープに半分体を入れるようにして膝を折っている。
ユニコを木に繋ぐような事はしないそうだ。賢くて強い生き物だから、繋ぐと余計に動きが取れず襲われたら殺されてしまうという。勇敢で強くて美しいなんて、なんて素敵なんだろう。
そして絶対に、ファイは俺よりも戦闘能力高いだろうな。
「今日はゆっくりと寝て、明日は早めに町に入ってしまおう。テントは疲れる」
「分かりました」
腰を上げてユーリスさんに招かれるままに入る。ふかふかのラグの上に寝転んでブランケットをかけた俺は、妙にわくわくしている。小学生や中学生に戻ったみたいだ。
「ふかふかで快適。とっても寝心地いい」
「そうか?」
「そうですよ。広さも十分だし、寝返りも自由自在だし」
試しに少し転がってみる。凄く気持ちよくゴロゴロできた。
そんな俺を見て、ユーリスさんは楽しそうに笑う。少し苦笑が混じっているように思えた。
「そんなに喜んでもらえて良かった。俺にしたら普通なんだが」
「テントって、俺の世界じゃ少し特別っていうか…イベント? 学生の時に友達と長期休みに遊んだ記憶とかあるんです」
「テントで寝る事がイベントなのか?」
よく分からないな、という様子で寝転がり頭の後ろで手を組んで上を見上げる。俺はその横に並んで、ゆるゆると瞼を閉じる。
ゆっくりと眠りが降りて来て、いつの間にか眠ってしまっていた。
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