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6-2 モンスターなんて怖くない! なんて嘘です

 どのくらい眠ったのだろう。突然木を裂くようなミシミシという音に目を覚ました。そして、テントの奥に見える巨大な影に飛び上がっていた。 「なっ、なに?」  ガタガタ震えながら手探りに縋るものを探すと、ギュッと握る手があった。 「片付けてくる」  とても静かな声がする。見上げると、凜々しいユーリスさんがいる。  真っ直ぐにテントの外へと視線を向けたまま、立ち上がろうとする。俺は怖くてその足下に縋り付いた。無言のまま首を横に振る。  行ってほしくない。怖い。  困った顔で、ユーリスさんは膝をつくと俺の背中を抱き寄せてくれた。 「大丈夫、このテントの周りには結界を張ってある。突破されることはない」 「それなら…」  行かないで。言おうとしたがその前にユーリスさんは立ち上がってテントの入り口に手をかけた。 「!」  俺はその大きさに驚いて声をなくしていた。  見えたのは三メートルはありそうな狼だった。赤い瞳に黒い毛を逆立て、俺なんか一呑みにしそうな大きな口からは涎が垂れている。  ガタガタと震えた。ファイもタープから外には出ずに立ち上がり、ただ睨み付けている。  ユーリスさんが出ていく。俺はそれを追ってテントの入り口から顔を出した。そんな俺に、ユーリスさんは困ったように緩く笑う。 「怖いなら中にいろ。直ぐに終わるから」  そんな事を言われたって、どうしようもない。肌にビリビリと感じるものがある。俺は震えたままだ。  ユーリスさんが大きいと言っても、人間レベルの話だ。こんなモンスター相手だととても小さい。  ダメだ、殺されちゃう!  人間、怖いと余計に目をそらせないのかもしれない。俺は震えながら見ていた。  ユーリスさんの手にはまった指輪が光り、いつの間にか手に剣が握られていた。長大な剣は俺の身長くらいありそうだ。それを構えるユーリスさんは、張った結界の外に出て行ってしまった。 「ウオオオオオオオオオン!」  遠吠えのような高い声の後は、ズシンと音がしそうな勢いで鋭い爪の前足が地を抉る。だがユーリスさんはそれを素早く避けて翻弄している。右、左と足が踏みつけようとする。  苛立ったように鋭い牙が噛みつこうとするが、それもまったく危なげがない。尻尾を振り回し、前足を掻き、噛みつこうとする。だがその全てがユーリスさんには効果がない。  狼の前足を踏み台に宙に身を躍らせたユーリスさんの剣が、狼の背につき立つ。  痛みに暴れ振り払おうにも、剣が背中に刺さっていて振り払う事ができない。そのまま、ユーリスさんの剣が背を割くように動いた。  断末魔の悲鳴を上げて、狼は横倒しになった。

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