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7-1 A級モンスター登場

 翌日の昼頃に俺達は町に到着した。馬屋にファイを預けて町のメイン通りにくると、様子の変化に俺は驚いた。 「凄い人ですね。お祭りでもあるんですか?」  町は中規模だろうが、人が沢山だ。俺は隣のユーリスさんを見上げたが、ユーリスさんも訝しげに首を傾げている。 「そんな事はないはずだ。何かあったな」  言うと、ユーリスさんは俺を連れてとある建物の中に入っていった。  無骨な感じの建物だ。扉を開けると筋骨隆々という感じの人が一様にこちらを見る。  俺は怯んでユーリスさんの腰に腕を回して抱きついてしまう。その俺の頭を、ユーリスさんは撫でてくれた。 「ユーリス!」  少し遅れて周囲からユーリスさんを歓迎するような声が上がる。さっきまでの殺伐とした感じはなく、とてもいい感じだ。 「良かった、お前がいれば奴を狩る事もできる!」 「何かあったのか?」  そう言いながら腰巾着の俺を連れたまま、ユーリスさんはカウンターへと向かっていく。そしてそこにいる男の人に視線を向けた。  多分、狼の獣人さんだ。猫耳のようだけれど、尖って凜々しい。尻尾もふさふさだ。赤みがかった茶色の髪と同じ色の耳と尻尾の、五十代中頃のちょい悪親父だった。 「何があったんだ、マスター」 「ユーリスか、丁度いい所に来てくれた。街道に、A級モンスターが出たんだ」  その言葉に、珍しくユーリスさんの表情が歪んだ。 「何が出たんだ」 「ティアマットだ」  側にいて、ユーリスさんが息を呑むのを俺は聞いた。 「それで、皆足止めをくらっていたのか」 「あぁ。宿屋は一杯だぞ」 「ここの上は?」 「空いてる。ただし、シングルだぞ」 「構わない」 「え? ユーリスさん?」  俺が声を上げたことで、ようやく俺の存在に気づいたらしい狼の獣人さんが視線を向けた。 「何だお前、恋人連れか!」 「恋人?」 「違う!」  ニヤリと笑う狼さんに反論するように、ユーリスさんが赤くなって否定している。俺は首を傾げてしまった。 「お前が誰かを連れてるなんて初めてだろ。どこで拾ってきたんだ、そんな可愛い子」 「違う! 彼は異世界人で保護したんだ。これから王都に向かうんだ」 「異世界人?」  狼さんがカウンターから乗り出すようにズイッと俺に顔を向ける。そして、マジマジとみられた。 「へぇ、こりゃ珍しい! あぁ、気をつけろよ。お前さんくらい可愛いと危ないぞ」 「あの、いや…」  この世界で俺はどれだけ魅力的に見えるんだよ。色々普通だったはずなのに。 「マスター、部屋を頼む。マコトはここの部屋にいてくれ。誰が訪ねてきても、絶対に部屋から出ないように」 「……え?」  それはどういう意味なんだろう。俺が首を傾げると、狼のマスターさんは理解したように頷いていた。 「俺はこれから直ぐにモンスターを討伐してくる。そう日はかけないから、マコトはここで待っていてくれ」 「あぁ、うん。それはいいんだけど…」  部屋から出ずに誰が訪ねてきても出るなって、どういう意味だろう。俺が疑問を深めると、ユーリスさんが耳元に唇を寄せてきた。 「前の町で聞いただろ? 闇商人がいるかもしれないと」 「あ…」  俺の頭でも覚えている。俺は珍しいから、そういう人に需要があるそうだ。捕まったらそれこそ、大変な目にあうだろうって。 「闇商人に商品を売り渡すのは大抵が道を外れた冒険者だ。そういう輩がここにいる可能性もある。ここは冒険者がクエストを受ける為のギルドだからな」  そう言われると俺は怖くなる。周囲を見回して、俺を見ている人が全員そう見えてしまう。身を固くした俺の頭をマスターさんがガシッと撫でた。 「心配すんな! こいつは腕のいいA級冒険者だ。直ぐに済ませて帰ってくるさ」  ユーリスさんに鍵を渡し、俺はそのまま二階へと上がっていく。そして、割り当てられた部屋を開けた。  部屋の中はごく普通のシングルの部屋だ。簡素だけど使いやすい。シャワーとトイレも完備だった。 「ここに結界を張っていく。マコトが扉を開けなければ誰も入ってこられない。だが、開けてしまうと招き入れた事になるから気をつけてくれ」 「あの、ユーリスさんは…」  危険なモンスターを倒してくるのだろうか。怪我はしないだろうか。無事に戻ってきてくれるだろうか。  昨日の事を思い出す。俺は怖くなってガタガタ震えた。俺は今ユーリスさんを失ったらどこにも行けない。この世界にひとりぼっちになってしまう。思うと怖くて、震えてきた。  ユーリスさんの手が俺の頭を撫でる。優しく、穏やかに。 「今日は行かない。町に出て、マジックバッグを一つ買おう」 「あの…」 「君が作ってくれた料理をそっちに少し移しておく。それで食いつないでくれ。飲み物も買いためておこう。あと、お金も」 「あの!」 「一週間たっても俺が戻らなかったら、もしくは部屋の結界が消えたらカウンターにいた狼の獣人の所に行ってくれ。無骨だが、面倒見のいい人だ。俺からも言付けていく」 「そんな!」  それは、絶対はないってことだろうか。危険だって事だろうか。  止めて欲しい、行かないで欲しい。俺は駄々をこねるように首を横に振って腰に抱きつく。  どうして行かなきゃいけないんだ。そのうち、倒されてしまうのを待ったっていいじゃないか。どうしてそれをしちゃいけないんだ。 「行かないで」  呟くように出た俺の言葉に、ユーリスさんは困った顔で微笑む。そしてとても優しく、頭を撫でてくれた。 「放っておけば被害が大きくなる。街道に出るなんて珍しいが、だからこそ大変だ」 「だからって…」 「人が死ぬばかりじゃない。人の流れも滞り、物流が止まる。大変な事になるんだ」  駄々っ子をあやすみたいにユーリスさんの手が背中を撫でる。俺は、なかなか離れられない。 「約束する、必ず王都へ連れて行く。だから、今は離してくれ」  困らせてしまっている。それは分かっている。俺は何度か深呼吸をして、そっと腰を離した。 「戻ってきてくれますか?」 「あぁ」 「…それなら、お金はいりません。食べ物と飲み物だけ備蓄して、引きこもります。ユーリスさんが戻るまで、この部屋を出ません。ユーリスさんが戻らなかったら、俺ここで飢え死にします」  当てつけのように言うと困った顔。それでも頷いて約束してくれた。

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