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12-1 竜の国へ

 王都一日目が静かに過ぎる。宿屋の一階で食事をして、お酒を飲んだ。それでも俺の気持ちは晴れやかじゃない。今後の事があまりに重くのしかかってくる。  俺のスキルは就職には適さない。しかも隠さなくちゃいけない。ユーリスさんにはここまで連れてきてくれたけれど、これ以上は甘えられない。  何より俺はこの人の側にいても役に立たない。足手まといになったばかりだ。 「マコト、そんなに落ち込む事はない」 「でも…」  ここは贅沢なんて言っていられない。明日もう一度市役所のお姉さんを訪ねて、住み込みで働ける場所を探そう。料理店の住み込みの話も前向きに検討しないと。 「マコト」 「あっ、はい?」  肩を叩かれて俺はユーリスさんを見た。何度か呼ばれていたのかもしれない。とても心配そうな顔をしていた。 「マコト、今後の話なんだが」 「あ…」 「もしよければ、もうしばらく俺と一緒に旅に出ないか?」 「え?」  でもそれは、ユーリスさんに利がない。俺なんか養って、気遣っての旅なんてしなくてもいいだろう。この人は強くて、基盤もちゃんとしてて、足手まといと一緒よりも一人の方が動けるのに。 「でも、俺…」 「スキルやステータスが全てじゃない。何よりマコトは愛らしいし、自然と皆に好かれる雰囲気がある。数字が全てではないんだから、そんなに落ち込む事はない」  優しいな、本当に。こんなに優しくてイケ面なんて、ずるいな。しかも強くて王子様だ。 「実は、マコトが教会にいる間に冒険者ギルドに行ってきたんだが、いいクエストがなくてな。そこで、一度国に戻ろうかと思っているんだ」 「国って…」  竜人の国。名前は確かジェームベルトだったっけ。ユーリスさんの故郷か。 「ここからだと、徒歩で二十日ほどだ。国境を越えて隣の国だから」 「あの、それなら余計に俺なんて…」  王都までは五日程度。それでも迷惑を掛けてしまったのに、次は二十日。俺の体力と足だともっとかかるんじゃないだろうか。心配になってしまうと、ユーリスさんは穏やかに笑った。 「今後の生活、迷ってるんだろ?」 「それは、そうですが…」 「それなら、焦って決めない方がいい。マコトはまだ若いし、迷っても大丈夫だ。それに、俺としても助かる。マコトの料理は美味しいし、俺は家事能力がない。旅の間の料理なんかをしてもらえると助かる」  穏やかに笑って言うこの人はなんていい人なんだろう。あんまりいい人だから心配になる。それに俺も、甘えっぱなしでいいんだろうかと不安だ。 「それに、竜人の国では人族は需要がある」 「需要?」 「竜人族はあまり器用じゃないんだ。人族は器用な者が多いし、他を威圧しないから接客業にも定評がある。実際、宿屋や飲食店などでは多く働いている。ここで仕事を探すよりも、選択肢が多いんじゃないかと思ってな」  種族によって得意不得意があるんだな。それに、そういう事ならいいかもしれない。  俺は考えて考えて、結局ユーリスさんのお誘いに有り難く乗っかる事にした。

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