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12-2 竜の国へ

 旅は順調に進んでいる。王都付近は街も多くて野宿の心配もなかった。  十日をかけて国境へ。そこから先は森ではなく、穏やかな平原。それほど強いモンスターもいないから、野宿をしても平気だった。  旅も残すところ五日程度。俺達は最難関の峠越えをしようとしていた。 「ここからは気をつけてくれ。裾野の森にも多少強いモンスターがいる」  キリリとした面持ちでそう言ったユーリスさんが、首から下げていた首飾りを外して俺にかけてくれた。  キラキラ光る黒い水晶で出来た笛のようなもので、陽に透かすと宝石のように光った。 「ここまで来れば同族がいるかもしれない。何かあったらこれを吹いてくれ。同族がいれば、助けてくれる」 「でも、それならユーリスさんが…」 「俺はいざとなれば竜に戻って一声鳴けばいい。俺達の咆吼は一山越えて同胞に聞こえるからな」 「そうなんだ…」  ってか、竜人族の人って竜になるのか。雰囲気からして、西洋風な竜だよな。  胸元でキラキラ光る笛を握りしめ、これを使わなくてもいいようにと願うばかりだった。  森を抜ける少し前で野宿をした。  湖の側にテントを張って、そこに二重に結界を張った。より安全なようにだという。幸いモンスターが襲ってくる事もなく、安全に一夜を過ごせた。  山登りはやっぱり大変だった。岩肌が見えるような悪路に足を取られ、滑り落ちそうになる度にユーリスさんが引き上げてくれる。何でもないような顔で、「大丈夫か?」なんて言ってくれて。  あっちの世界でもっと体力つけておけばよかった。もしくは登山部とかならよかった。  結局初日は山の三分の一しか登れず、早めに野営を張ることになった。俺はバテバレで、笑いながらユーリスさんがテントやらを準備してくれた。 「ごめんなさい…」  俺はもう、情けなくて泣きそうだ。俺ってこんなに体力なかったっけ? 普通だと思っていたのに、こっちの世界じゃ通用しないのか。 「峠越えは大変だから、気にしなくていい。気を張りながらだし、慣れないと辛いんだ」 「俺、情けない…」 「そんな事はないさ。やれるだけの事をやっているんだ、恥じる事はない」  励ますようにポンと肩を叩かれる。側にいて、パンパンに張った俺の足に『ヒール』を唱えてくれた。だるさが良くなる。  寝転がる俺の隣に同じように寝転ぶユーリスさんを見る。  俺の事を助けてくれて、今も気に掛けてくれる人。俺はこの人に大事なものを与える事ができる。それを隠して側にいる。怖い事が多くて、素直にはなれない。  俺がもう少し楽観的なら、多分隠していないだろう。生理的な嫌悪はないと思えるのだから、躊躇ったりしないだろう。  悶々としながらユーリスさんを見るのに、俺は何も進めない。そんな日がもうずっと続いていた。

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