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12-3 竜の国へ
翌日はだいぶ頑張った。途中で太めの木の枝を見つけて、それを杖代わりにした。そのおかげでユーリスさんに支えられて登るような事は少なくなった。
昼を少し過ぎて、俺達は見晴らしのいい場所についた。右は鬱蒼とした森、左は崖だ。下には川も流れている。道幅はあるからそんなに危機感は感じないが、崖下を覗き込む勇気はなかった。
「あまり崖の縁を歩かないでくれ。落ちたら大変だ」
「うん」
大変だでは済まされないのは、よく分かった。
えっちら、おっちら、と登ること一時間。更に標高は上がってくる。
ユーリスさんは少し先にいて、俺は棒を杖にして追っている。これがなかったら置いて行かれた。へっぴり腰でもどうにかなる。
そうして登っていると、不意に森の方から何か音がした。
ミシミシミシ
小さな音がして、立ち止まって目をこらす。何がいるのか見ようとするのは本能なのか。それと目が合った瞬間、俺は恐怖に悲鳴も上げられないまま動けなくなった。
「マコト!!」
先を行っていたユーリスさんの声と、バキバキッという木をなぎ倒す音が重なる。爛々と光る金の瞳が直ぐ側だ。それが大きな爪のある手を振り上げたのを見ている。多分一瞬、でも長い。全部が俺の目の前で遅くなる。
体を何かが覆った。なのに内臓に響くような衝撃に呻き、心臓が止まるような苦しさに意識が飛ぶ。頭が揺れて痛い。吐きそうだ。
急速に落ちていく感覚を肌が感じている。でももう、意識はほぼない。時々、落下が緩やかになった気がする。温かなものに包まれて、俺は異界で死ぬのだとぼんやり理解した。
足の先が濡れて冷たい。頭が痛い。気持ち悪い。俺はゴツゴツした痛みを感じながら起き上がり、頭を上げた瞬間にこみ上げるものを我慢出来ずに嘔吐した。
足先は川に浸かっている。頭はまだ痛いままで、気持ち悪い。
でも、そんな自分の些細なものは一瞬で吹き飛んだ。目の前の光景に、ただ世界が暗くなっていく。
「ユーリスさん?」
俺の下になって倒れるユーリスさんは全身を血に染めていた。俺は血が出るような怪我をしていない。それなら、これは…。
「ユーリスさん!」
必死に叫んで側に寄って頬に触れて体に触れる。意識が戻らないし、いつもより肌の色が白い。呼吸はしているけれど、とても浅い。
「あっ、嘘だ……」
死んでしまう。俺は必死にバッグの中から綺麗な服を引っ張り出して脇腹を押さえた。そこからどんどん血が溢れてきているのが分かったから。それでも止まってくれない。直ぐに服はグチャグチャになってしまう。
「お願い、ダメだよ…お願いだから……」
後悔が溢れてくる。もっと一緒にいたいとか、どうして自分を庇ったんだとか、色々。涙で顔がグチャグチャだった。
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