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13-3 バカだと知っていたけれど、ここまでなんて

 一晩泣きはらして、少し過呼吸っぽくなりながらも俺は少し冷静になった。冷静になったら、本当に救いようがなくなった。  スキルを聞いた時に、俺は思ったはずなんだ。ユーリスさんに商売人のような目で見られるのは嫌だ。子供を産む道具のように扱われるのは嫌だって。  なのに昨日の俺は自分から、そうなろうとした。  俺は何でも良かったんだ。ユーリスさんの側に居続ける為には有益でないといけないって思ったんだ。その為にスキルを利用しようとした。俺にとっての武器は、それしかないから。  バカだ。ユーリスさんにだって気持ちってものがある。相手に求める条件がある。俺みたいな役立たず、好みのはずはない。  前に一度触れてくれたのは、俺が媚薬に犯されてどうにもならない状態だったから。  憐れんでくれたのに、勘違いした俺が悪い。自分にそんな価値なんてない。親にすら捨てられた奴が、誰かの特別になりたいなんておこがましいんだ。  俺は、ユーリスさんの事が好きなんだ。  これが一晩泣きはらして出た、俺の中の純粋な気持ちだった。 「マコト」  扉の外で声がする。俺の肩はビクリと震えた。コンコンとノックをする音にも、俺は震えた。  どんな顔で合えばいいか分からない。どんなふうに言い訳したらいいか分からない。何でもないように笑って「なんですか?」なんてきっと言えない。  何度かノックされたけれど、俺は動けないままベッドの中で丸くなった。そのうちに、気配が消える。それに安堵するなんて、俺は恩知らずだ。  夕方、俺は一つ決心をして着替えて屋敷の厨房に向かった。中ではコックさんが料理を作り終えていた。 「おや、マコトさん」 「あの、厨房お借りしてもいいですか?」  俺の申し出に、コックさんは不思議そうな顔で首を傾げた。 「旅の間、ユーリスさん俺の料理気に入ってくれたみたいなので、何か作れたらいいなって。俺に返せる事って、このくらいしか思いつかなくて」 「そりゃいい。ユーリス様も喜びますよ」  コックさんは嫌な顔一つしないで、俺に厨房を貸してくれた。何を作ろうか考えて、厚焼き卵と唐揚げと金平ごぼうを作っておいた。 「手慣れてますね」 「好きなんです、料理」  作り上げて、それを皿に乗せて渡す。お礼を言った俺は部屋に戻ってマジックバッグの中を確かめた。  作り置きの料理はまだ残っている。買ってもらった服や、念のためにと渡されたお金。それらがちゃんとあることを確かめて、テーブルの上に置いた。  そして預かっていた黒い水晶の笛をその脇に置いた。 「ごめんなさい」  俺に出来るのって、結局料理しかなかった。純粋な俺の力で出来る事で、せめて喜んでもらいたい。俺に返せるせめてもの事だった。  俺は少し散歩したいと言って屋敷から出て、戻らなかった。  一本道を下っていけば町に辿り着くのは聞いていたし、ロシュから国の中にはモンスターはいないって教えてもらった。だからただ歩いていけば、どこかに行けるんだ。  屋敷が遠くなっていく。俺の心はひび割れたみたいに痛んだし、涙が溢れてきたけれど、振り返ったり足を止めたりする事はなかった。  甘えすぎていたんだ、やっぱり。ちゃんと自分で生きられないとダメなんだ。  仕事のえり好みなんてしないで、辛くてもやればよかった。喜んで就活するって言えば、ユーリスさんだって頷いてくれたはずだ。  それに、側にいる事が辛い。今までのようになんて無理だ。体つかって迫って、拒絶されて、好きだと気づくなんて間抜けすぎるけれど、だからこそ側にはいられない。今までの惰性でお世話になることだけはしたくない。  諦めろ、俺には不相応な相手だ。身の程知らずなんだ。何の魅力もないんだ。思ったって、辛いだけだ。失恋なんて過去何回かあったじゃないか。その度に、ちゃんと浮上できただろ。  でも俺の気持ちはなかなか浮上しなくて、苦しさは重しのように足を鈍らせて、捨てられた犬みたいにトボトボと歩きながらいつしか屋敷は見えなくなった。

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