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14-2 失恋を経て俺は第二の家族を得た

 すっかりお腹は膨れた。少し食べ過ぎた。そんな俺の前に温かなお茶が置かれる。マーサさんがにっこりと元気な笑みを浮かべた。  食事をしながら、俺達は自己紹介をした。それによると、この宿の女将さんはマーサさん。旦那さんはモリスンさんと言う。夫婦でこの宿を切り盛りしているんだとか。  俺はここまで来た事情をある程度話した。異世界人であること、仕事を探していること。でも、ユーリスさんの事は話さなかった。 「マコト、今日はここに泊まっていきなさいな」 「え? そんな、悪いです。食事を頂いただけでも申し訳ないのに」 「何言ってるの! 顔色悪いし疲れてるんだよ。食べて寝る、元気はそこからだよ」  あまり甘えちゃいけない。俺はストップがかかる。けれどそんな俺の側に来たモリスンさんが、頭にポンと手を置いて頷いていた。 「マーサの言うとおりだ。そんな顔色ではまた倒れてしまう。幸いうちは宿屋で部屋はあるんだ、泊まっていきなさい」  お日様みたいに元気で明るいマーサさんとは違い、モリスンさんは静かな優しさがある。細く学者っぽい雰囲気があって、静かに無茶を叱ってくれる。  それが優しくて、俺はどうも弱い。 「すみません」 「遠慮するんじゃない。少し寝ておいで」 「でも、お店のお部屋はやっぱり。適当な場所でいいですから」 「…それなら、一階の奥にある部屋を使うといい。私たち家族のスペースだから、遠慮することはない」  そう言って奥へと案内してくれるモリスンさんに有り難くお礼を言って、俺はついていった。  部屋は小さいけれど居心地の良い感じで、温かい布団と溢れる日差しが嬉しい感じだった。ベッドと机だけのシンプルの部屋は、お日様の匂いがしそうだ。 「ここを使っていい。余っているから」 「有り難うございます」  丁寧にお礼を言って、俺はドアを閉めて服を脱いだ。  服も全部ユーリスさんの所においてきたから、実は一張羅。外套を途中の人にもらって羽織ってきたから土埃なんかは平気だろうが、汗やらはかいている。 「後で洗わないと…」  下着も途中の川で洗ったりしてきたけれど、やっぱりもう少し持ってくればよかった。ベッドに入る前に体も綺麗にしたいかも。  外を見るとマーサさんがいる。俺は部屋の窓を開けてマーサさんに話しかけた。 「あの、マーサさん」 「あら、どうしたの?」 「先に体流したいんですけれど、井戸とか…」 「井戸なんて使うんじゃありません! お風呂こっちよ」  ピシャリと言われ、俺は外套だけを纏ってマーサさんが進んだ方へと向かう。勝手口から入ってきたマーサさんに案内されて、俺はお風呂に入る事ができた。  温かなシャワーを浴びて体を綺麗に洗って、用意してくれたお湯に浸かる。生き返るみたいだ。体の疲れも全部溶けてしまいそうだ。 「ふぅ、幸せ…」  人心地ついて、ふと浮かぶのはユーリスさんの顔。一緒に旅した時間の思い出だ。 「うん、大丈夫」  思い出だけで十分だ。俺は十分幸せだったんだ。親切で優しいユーリスさんに出会えて、その人の事を好きになって、触れるだけだけど甘い夜もあって。  ズキッと痛む部分もある。悲しみや寂しさもある。けれどもう、涙は出ない。旅の間に泣けるだけ泣いた。もう、前を見ないといけないんだ。甘えちゃいけないんだ。 「明日から仕事探して、ある程度たまったら次行こう。その前に、マーサさんとモリスンさんにお礼したいな」  温かい二人に助けられた。俺は、本当に人に恵まれていると思う。  お風呂を上がると、真新しい服が置いてあった。でもやっぱり俺にはブカブカだ。そして俺には魔法は使えない。  オタオタしていると俺の服を洗ったらしいマーサさんが来て、俺に『ジャスト』の魔法をかけてくれる。俺は本当に情けなくて俯いたけれど、明るいマーサさんは気にしないみたいで「呼びなさい」と言ってくれた。  お風呂と綺麗な服で布団に入ると、やっぱりお日様の匂いがした。  埋もれるように横になると、疲れがドッと押し寄せてくる。眠くて、体が重くて仕方がない。俺はそのまま泥のように眠った。
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