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15-3 俺の大切な人はただ一人の黒龍だと今更認識した
俺はその後、ユーリスさんの手の中に座って屋敷に戻ってきた。
朝に送った手紙の返事が昼って、早すぎないかと思ったけれど納得した。竜人さんは竜になるんでした。
ユーリスさんはとても立派な黒龍で、あまりの大きさに少し怖かった。そんな彼の手に包まれた状態で、俺は屋敷に戻ったのだ。所要時間二時間。俺が数日かかった距離が。
屋敷に戻ると、沢山の人が俺を囲んで口々に無事を喜んでくれた。とても心配させてしまったんだ。
話を聞くと、俺がいなくなったことを知って直ぐに側を探したけれどいない。盗賊に襲われたのか、国の外に出たのか、もしかして事故に巻き込まれたのか。
色々考えてくれて、探してくれて、それでも見つからなくて黒竜の領土全部に立て札を立てたらしい。
今更ながら大変な事になった。俺は申し訳無くて小さくなったけれど、誰も責めはしなかった。
その夜、俺はユーリスさんの部屋にいた。柔らかな明かりだけの室内のベッドの縁に、体が触れるくらいの距離にいる。
俺の心臓は大きく鳴っている。既に軋んでいる。緊張で口からなんか出そう。出たら怖いけれど。
「マコト、そんなに緊張しなくていいから。嫌な事はしないから」
「あっ、うん。分かってる…よ?」
ならなんで疑問形だよ俺。
俺の緊張を解すみたいに背中に手が触れ、撫でていく。安心させようとしているのは分かるんだけど、そのサワサワとした布越しの感触が妙にゾワゾワさせる。
「まず、すまない。傷つけたんだと気づいたのは、君が部屋を飛び出した後で。本当に、すまない」
「あぁ、いえ。あれは俺も…俺もどうかしてたんで」
好きなら一番しちゃいけなかった。でもあの時は必死すぎて、自分の気持ちとか相手の気持ちとか見えなくなっていたんだ。
「…君が浚われた時の事を、覚えているかい?」
「え? あぁ、はい」
忘れる事はできないだろう。王都に向かう途中、ユーリスさんが助けてくれなきゃ俺はどこかに売られていたし、その前に知らない男に犯されていた。まぁ、その後ちょっと大変だったけれど。
「あの時、自分の気持ちに気づいた。討伐を終えて部屋に戻って、君がいないのを知って身が焼ききれるかと思うほどの激情に襲われた。探し出して、乱暴をされる君を見て、血が沸くような怒りに自制がきかなかったほどだ」
静かに深く言われる。嬉しいと思う。でも、それってかなり怖いんじゃ…。
「あの後、媚薬に犯された君に触れて、欲情の深さに驚いた。あんなに、必死になったことはないんだ。義務ではなくて、責務でもなくて、欲情で触れたのは初めてだった」
「でも、あの時だって最後までは…」
むしろユーリスさんは俺を慰めるばかりで自分の事を押しとどめた。そこを無理矢理したのは俺だったはずだ。
でも、ユーリスさんは首を横に振った。とても申し訳なく。
「理性のほとんどを使い切った気持ちだったよ。俺との繋がりは経験のある奴でも痛みを伴うし、傷つけてしまう。マコトは男とそうした関係を結んだことはないし、正直怖いだろ?」
「…はい」
「それを知っていたから、必死だった。なのにあんな…受け入れてくれるから、驚いて…その……すまない」
いや、咥えて飲み込んだの俺の意志だったと思うけれど。謝る事なんて何もないのに。
「顔、上げて下さい。俺がしたかったんです。嫌悪とかもなかったし、俺もユーリスさんに気持ちよくなってもらいたくて」
「マコト…」
トロンと蕩けるような笑みが落ちてくる。この美丈夫がこんな顔したら、鼻血出そうだ。
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