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15-4 俺の大切な人はただ一人の黒龍だと今更認識した

「君が愛しい。振り向いて、側にいてもらいたい。思ったのはそこからで…でも男を恋愛対象に見られない君をどうやって口説けばいいかも分からなくて、後は色々と理由をつけて不慣れな君を国まで引っ張ってきた。屋敷で時間を過ごせば、気持ちが変わるかもしれない。俺を、受け入れてくれるかもしれないと」 「宿でエロいことしたのに?」 「あれは媚薬のせいもあっただろ? そうじゃなくて、心から受け入れて欲しかった。その時間が欲しくて連れてきたんだ。すまない、騙すような形で」  また項垂れるユーリスさんの頬を、俺は両手で包んだ。触れた肌が熱い。緊張なのか、恥ずかしさなのか。ユーリスさんの肌はほんのりと朱に染まっている。 「もう、謝らないでください。俺、恨んだり怒ったりしてないんで」 「でも…」 「卑怯だって言うなら、それにまんまと乗っかった俺もそうです。俺も、貴方と離れるのが嫌でついていったんです。だから、お互い様です」  知らない世界で、こんなに縋っていいのか迷って、それでもついていった。離れるのが嫌で、隠し事もして一緒にいたんだ。そんな俺がずるくないはずがない。 「あの、それならどうして俺が迫った時に、抱かなかったんですか?」  ふと思う。そんなに俺の事を好きでいてくれたなら、あの時抱いたっておかしくなかったじゃないか。俺はそのつもりだったし、構わなかったのに。  綺麗な黒い瞳が悲しみの色を滲ませてすがめられる。俺はそれを見て、やっぱりあれは俺の間違いだったんだと改めて認識した。 「抱けないだろ。いや、嬉しくはあったし、正直欲は疼いた。でも、あそこでマコトを抱いたら、俺はマコトを子を成すために利用してしまうように思ったんだ。スキルだけを求めて抱くことなんてしたくなかった」 「…今までは、そうだったんじゃ…」  あ、もの凄く傷ついた顔をしてる。 「あぁ、いえ! 過去がどうとか言わないし、正直聞くのも赤裸々すぎて耐えられないし! だからあまり大きな意味があるわけじゃ…」 「いや、いいんだ。そうだ、過去にはそうした事を繰り返していたんだ。でもそれは、そういう商売の相手だけであって…心から欲しいと思う相手じゃなかったから。相手も、金で割り切る者だったから。責務もあって、焦っていて…」  ううっ、ごめんなさい。困らせたり悲しませたかったわけじゃないよ、本当に。過去に嫉妬もしないよ、本当だよ。  不意に手が頬に触れる。弱い瞳が見つめてくる。それが徐々に柔らかく、愛おしく細くなっていくのを見るのは、結構好きだ。 「だからかな。過去のそうした相手と一緒にしたくなかった。心から求めて、気持ちを繋げて抱き合いたかったから、受け入れられなかった。そう、あの場所で言えばよかったんだ。ただ押し返すのではなくて、抱きしめて、愛しているからこそ今は抱けない。君の心ごと欲しいと言えていれば、こんなことにはならなかったのに」  恥ずかしくて耳まで真っ赤だ。なのに、嬉しいんだ。たまらない気持ちが溢れてくる。  柔らかな瞳が俺を捕らえて動きを封じて、近づいてきた唇が柔らかく重なって俺の心をどうしようもない切ないものに変えていく。  体の芯が痺れる。熱くて、切なくて、もどかしくてたまらない。俺はこの人が好きで、この人も俺が好きで、触れてくれるのが嬉しい。  吐息が熱い気がする。潤んだ瞳で見返すと、ユーリスさんの大きな手が耳から頬へと触れていく。 「マコト、改めて言う。俺は君の事が好きだ。君の気持ちを尊重していきたいし、共にあれるなら幸せだ」 「俺も、ユーリスさんの事が好きです。どうしようもなく、好きです。大した役には立てないけれど、この気持ちだけは本物です」  俺にあるのはたった一つのスキルだけ。そのたった一つだって、どのくらい役立てるか分からない。  でも、スキルに頼ってはいけないんだ。気持ちを繋いでおくのに一番重要なものを、俺は持てているかな? 伝えることしか出来ないけれど、それでもいいかな?  柔らかく唇が触れた。そして舌が、俺の唇をくすぐる。少しくすぐったくて、それ以上に先を期待させて、俺は素直に唇を開いた。  するりと入ってきた舌が俺のと絡まってクチュと音を立てる。気持ちが良くて、頭の中がぼーっとする。夢中で吸った舌の感触とか、掠める気持ちの良さに全身が熱くなっていく。 「マコト…怖いか?」  俺は首を横に振る。怖いなら受け入れてない。嫌悪もない。ただ、とても欲しい。触れて、触れられたい。  俺はユーリスさんの首にだきついて、そこにキスをした。 「欲しいです、ユーリスさん…」 「マコト」 「最後まで……いえ、貴方の子供、産みます。大好きな人となら、何も怖くないです。ちゃんと、気持ちも全部貴方のもので、貴方も俺ので…そこに形ができると、幸せです」  俺が言うと、ユーリスさんはビクリと震えた。とても恐る恐る俺の顔を見る。本当にいいのだろうか。そんな様子で。 「でも、マコトは怖いんじゃないのか? 男としたことはないだろ? それなのに…」 「怖くないわけじゃないけど、それ以上に欲しいです。ユーリスさんの愛情、全部。それに、俺が出来る事は全部したい。俺にはこのスキルしかないけれど、最初は呪いみたいだって思ったけれど、今はこのスキルでよかったって思います。だって俺、大事な人との間にちゃんと、命を繋げることが出来るんだから」  気持ちがなければ怖い。道具にはなりたくない。誰でもいいわけじゃない。  でもこの人の子供なら、産みたいし育てたい。俺は家族の形に憧れがあるから、愛情持って育ててあげたい。そしてとなりにずっと、この人がいればいい。  ユーリスさんはとても悩んで、考えて、そしてベッドの端に小瓶に入った白い薬を置いた。

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