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16-1 スキル「安産」が俺の至宝になる夜

 薬を一つ手の平に乗せたユーリスさんの手に、俺も重ねた。 「マコト、愛しているよ。本当に、俺の家族になってくれるのか?」 「はい、お願いします」  まだ不安そうに揺れている黒い瞳を見上げて、俺は笑う。大事にされてるな。そんな気持ちになる。  寄り添うようにキスをした。沢山の好きを伝え続けた。触れた部分がとても熱い。絡めた舌がこんなにも感じる。正直、気持ちよすぎてキスだけで腰砕けになりそうだ。  離れて、余韻に浸る。柔らかく笑ったユーリスさんが頬に触れて、そこにもキスをしてくれた。  手の平にある薬を見てみる。白かったそれは、今は真っ赤だ。梅干し? 苺? そのくらい鮮やかで濃い色をしていた。 「珍しいな、こんなに色がつくなんて」 「不良品ですか?」  これが俺の体の中に入って、俺の中を色々変えていく。子供を育てる場所を作っていく。そしてこの薬こそが、俺と絡んでこの人の子になる核になっていく。そういう物に不具合があるのは、かなり不安だ。  けれどユーリスさんは笑って首を横に振った。 「色の濃さは愛情の深さと結びつきの強さだ。色が濃いほどに強い子供が宿る」 「あっ、じゃあいいことなんだ」  それなら一安心。俺は薬を手に取って、それを口の中に放り込んだ。飲み込むのにそれほど苦労する大きさじゃない。躊躇わずにゴックンと飲み込んでいく。  体の変化って、あるんだろうか。そういえばそういう事、全然きかなかったな。  でも、考えると怖くないか? だって、男の体を妊娠可能にするような凄いものだ。苦しいとか、痛いとか、なんか副作用的なものってあるんじゃないのか?  ちょっと、ドキドキする。そして、ジワジワと下腹部が熱くなていくのが分かった。痛みのある熱さじゃなくて、強いんだけれど温もるような、そんな不思議な感覚がしている。  でもほんの少しだけれど感じられる。体が変わっていくように思える。そして、臍の周りにぐるりと丸く、黒い蔦のような痣が出てきた。 「早いな」 「なに?」 「薬が体に馴染んで、子を成す準備ができた証だ」  あ、この痣ってつまり、そういうこと? え、準備はOKいつでもいらっしゃい的な? それはそれで恥ずかしいな。  勝手な思いに顔を赤くしていると、体がベッドに倒される。柔らかな布団に寝かされた俺は、心地よい重さを感じた。  やっぱ、この人かっこいいな…。そんな事をぼんやり思う。短い黒髪に、精悍なラインの輪郭。顎のラインとかシャープだし、黒い瞳が薄く濡れてるのも色っぽい。体は引き締まってるし、手も足も長いな。  思って、俺は臍の辺りを撫でてみる。そして思う。どうせならこの人に似た子供になれよ。俺みたいなチンチクリンじゃ、この世界だとチビ扱いだからな! って。 「痛むのか?」 「ん? ううん、願掛け」 「願掛け?」 「父さんに似て生まれろよ。俺に似たらチビだぞって」  言ったら、とても悩ましい顔をされる。え? 俺って悩殺とかしてないけれど? 「可愛い事を言われると困る」 「可愛い?」 「俺はマコトに似た可愛い子でもいい。女の子なら、マコトに似てもらいたい」 「俺似?」 「あぁ。だが、そうだな…嫁に出せなくなるな」 「どこまで先の心配してるの?!」  まだやってもおりませんが、既に嫁に出すお父さん! あぁ、子煩悩かつ、「パパ、ウザい」って言われちゃうタイプなのかな。  でも、なんだかそれも面白い。打ちひしがれるこの人もまた、見ていて楽しくなる。  チュッと、頬にキスをした。色々考えていたら、なんだか体の奥が疼く。こう……キュとなるんだけれど、これは正解なのだろうか。 「じゃあ、まずはしっかり子作りだね。俺、幸せな家族って憧れだからさ、子供何人いてもいいよ」 「マコト…」 「そのかわり、ちゃんと愛情もって育てられるだけにして下さい。愛してあげられないなら、沢山なんていりません」  俺は親に捨てられた。その後育ててくれた人がどれほどいい人で、かけがえのない家族でもやっぱりこの事実は拭えない。消えてくれない。  子供心にもあったのだ、愛されないならどうして居るんだろうって。  ユーリスさんは確かに頷いて、穏やかに笑う。そして俺に、とてもとても甘いキスをした。

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