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16-5 スキル「安産」が俺の至宝になる夜
ふと、臍の周りが熱くなった。見ると黒かった印が赤くなっている。
「あれ?」
「…まさか、一回で」
「何?」
刻むみたいに赤くなったそこはとても熱い。けれど徐々にそれが消えていく。後には何も残っていない。
「え! あの、失敗?」
痣が消えてしまった。これって、もしかして子作り失敗したんじゃ。
思ってオロオロした俺を、ユーリスさんが抱きしめてくる。心持ち、腹に重みをかけないように。
「成功だよ」
「え?」
「俺の精と核が結びついて、定着したんだ」
「…あ」
それはつまり、俺のお腹の中に命が宿ったってことで…。
なんだか言いようがない。体の変化って、まだ分からない。でも言われると、なんだか温かい気もしてくる。
探るように撫でてみても、まだ俺のお腹はぺったんこ。よほどユーリスさんを受け入れていた時の方が出てた。彼のナニの形に。
「マコト」
キスが降る。ユーリスさんは少し涙ぐんでいて、嬉しいんだって直ぐに分かった。
俺も嬉しいよ、本当に。異世界で俺は、大好きな人と家族になる。それがとても身近に感じられるんだから。
「愛している、マコト。改めて、俺と結婚してくれないか」
「結婚……」
繰り返して、ふと冷静になって、なぬ! となっている。
家族になるって事は結婚するってことだけれど、抜けてた。えっと、これってデキ婚? 親御さんにご挨拶もしてないのに? しかも相手は王子様!
「マコト?」
様子の違う俺に、ユーリスさんは少し戸惑った様子だった。俺もちょっとパニックだった。
「俺、挨拶とかしてない」
「いいよ、後で向こうがくる」
「嫁としてどうなの!」
「いいんだよ、本当に。反対なんてさせないさ」
笑われて、抱き込まれて。なんかこの腕特殊な魔法か! てくらい安心する。
徐々に意識が途切れてきて、俺は目を閉じた。
下腹がやっぱり温かい。まさか俺が家族を産むなんて想像してなかったけれど、この温かいものを守っていくのは存外好きで、生まれてくる子を今から愛おしんでいるような気がして、とても幸せに思えている。
こんな異世界ライフも、多分俺にはありだったんだな。
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