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17-1 「息子さんをください!」は俺の台詞じゃなかった
翌日、俺は目が覚めた。温かい腕に包まれてゆるゆると目が覚める。体は汗ばんでいて、でも心地いい。どこからか食事の…パンの焼ける匂い…。
「うっ…」
「マコト?」
緩く目を覚ましたユーリスさんが、不審そうに見ている。当然だ、俺は口を押さえて上半身を起こし、突然と押し寄せた吐き気に困惑している。
またパンの匂いが…美味しそうに…。
「うぅっ」
「マコト!」
ダメだごめんなさい!
俺はベッドを降りて辺りを探してシャワールームに駆け込んだ。そして、こみ上げる吐き気のままに吐いてしまった。
どうしたんだよ俺の体。朝から肉が食べられる元気で逞しい胃袋なのに。
心配したユーリスさんが、涙目で吐いている俺を見て慌てて背中をさすってくれている。それでも俺はダメだ。動けないし気持ち悪い。急速な変化に置いて行かれている。
「婆! 婆はいるか!」
俺の背中に温かなガウンを着せかけて、自分も素早くローブを着てユーリスさんが表に出る。
あぁ、なんかまずい。これ、フラフラする。えっと……もしかするけどこれが悪阻って言うんじゃないんだろうか。
ぼんやり思いながら、俺はゲホゲホいいつつシャワールームの中に倒れた。なんか凄く、怠いし体が重かった。
ユーリスさんが戻ってきたのは、わりとすぐ。倒れている俺を抱き上げてベッドに横たえてくれた。
その直ぐ後に入ってきた婆さんは、俺の体を丁寧に診察してくれた。
「確かにお子が宿っております! おぉ、何という事。本当に、おめでとうございます」
涙ぐんで俺の手を揉んでいますけれど、俺は今それどころじゃない。気持ち悪い。水飲んでも吐きそう。どうして…。
「具合が悪いようだが」
「悪阻ですな。サッパリとするレモン水をお持ちしましょう。食べられそうなものはありますかな?」
「今は…」
「果物をお持ちしましょう。後、この部屋に匂いが入らぬように結界をかけましょう」
「匂い……」
ぼんやり思いだしている。
そうだ、パンの匂いだ。俺、パン好きなのにちょっとショック。
聞いた事あるよ、好きなのに食べれなくなるんでしょ? どうして俺がこんな事知ってるかって? 近所の奥さん連中に俺が気に入られていて、お菓子欲しさにチビの頃からお茶会参加してたからだよ。
大きな手が俺の頭を撫でてくる。切れ長の瞳が気遣わしく細くなる。俺も辛いけど、ユーリスさんも辛そうね。なんか、ちょっと楽になった。
「これ…どれくらい続くの?」
婆さんに聞いてみる。何日も食べられないんじゃ、流石に心配。俺がしっかり食べないと、お腹の子とか成長できないでしょ?
でも、婆さんはそれほど心配していない様子で笑った。
「1日もあれば治りますよ。明日にはけろっとしておいでのはずです」
「そんなに短いの?」
だって、何ヶ月も食べられないとか、聞いた事あるよ。子供心に大変なんだなって思ったよ。
ユーリスさんも首を傾げている。やっぱり、そんなに早く治らないんじゃ。
「婆、竜人の妊娠期間は7ヶ月。悪阻も1ヶ月は続くと聞くが」
「マコト様は安産スキルレベル100。しかも、付属スキルに成長促進がありますな」
「はい…」
「その影響でしょうね。腹の子は見る間に育っておりますよ。昨夜お手がついたと伺いましたが、既に1ヶ月以上は育った様子です。この分なら、7日ほどでお生まれになるでしょう」
「「………は?」」
俺とユーリスさんは顔を見合わせた。
え、7日? 1週間ってこと? どんなお手軽妊婦ライフ? え……早けりゃいいってもんじゃないでしょ!
「嘘…でしょ?」
「おや、嘘などつきませんよ。これでも婆は国一番の医療スキルの使い手です。今まで見誤った事などありませんぞ」
「いや、流石に…」
心構えとか、覚悟とか、準備とか、諸々とか…。
俺が言いたい事はユーリスさんにも伝わった。明らかに戸惑っている。結局顔を見合わせて、双方共に「どうしよう」だ。
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