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17-2 「息子さんをください!」は俺の台詞じゃなかった

 レモン水は美味しい。果物も食べれる。俺はそういう動物になったように食べられた。腹も満たされた。  これには吐き気は出なかったけれど、一気に食べると気持ち悪くなるんじゃないかと心配したユーリスさんに止められた。  今は二人並んでソファーに座っている。そして、二人して俺の腹をみつつ意外と早い我が子の誕生を相談していた。 「えっと…早いよね」 「そうだな」 「あの…さぁ。実感ないんだけど」 「まぁ、俺も薄い」 「だよね」  妊娠期間って大事なんだね、心の準備とかのために。うんもすんもなく生まれてくるってどうなのよ。インスタントじゃないよ。 「まぁ、でも…」  ポンポンと頭を撫でられて引き寄せられる。温かいなって思う腕の中で、俺は落ち着いてくる。 「間違いなく、生まれてくる子は愛せる」 「…そっか」  自信満々という様子のユーリスさんを見上げると、俺もそんな気持ちになる。ビビって尻込みしたけれど、そっか、一人じゃないんだよね。 「勿論、マコトも愛している。だから辛いだろうが、心細くしないで欲しい。不安があれば言ってくれ。俺は無骨だから、察してやれない事もあると思う。君は知らない場所で、しかも初めての事で不安が多いだろう。言ってくれていい、支えるから」 「ユーリスさん…」  俺はなんて素敵な旦那様を持ったんでしょう。とても気持ちが軽くなったのと、暖まったのと。ゆるゆるっと笑顔になった俺を見て、ユーリスさんも安心したように笑ってくれた。  翌日になると俺は本当に食べられるようになった。え? 昨日のなんだったの? ってくらい食べられる。本当に昨日のなんだったの?  でも一気に体重増やすのはダメってことで、バランスのいい食事を心がける。うん、それでいいと思う。  お腹に変化はなし。案外膨れてくるのって遅いんだね。  さて、体調が戻ると心細さは減って、その分前を向けるようになった。俺、基本的には前向き楽観主義なんだなって思い知る。凄いね、逞しい根性。  とにかく俺は色んな知識が足りない。子供の育て方も知らないし、自分の事を当てはめられないなら学習が必要だ。  さて、そうなると経験者と話したりしたいけれど…いない。俺の知っている人で子持ちって、いないんだよな。  とりあえず今、俺は婆さんにお願いして「正しい妊婦ライフ」の本を読んでいる。  それによると、お腹が出てくるのは3~4ヶ月後。ってことは、明日か明後日くらいには大きくなり始めるってことか。うん、覚悟しよう。  その先も読んでみるけれど、とりあえずその後はお腹が張ってきて大きく膨らむらしいが、突然の吐き気とかはないらしい。むしろあったら危険だから知らせるように。適度に動いて、適度に食べるのがいい。心身共に健やかに。うん、大事。  でも問題はその後だ。7日後、出産。陣痛が始まって、等間隔で痛みが来て、その間隔が短くなる。そのうちずっと痛むようになるけれど、強くなったり弱くなったり。強弱の問題! 徐々に強い時間が増えていって…破水…でもって強い陣痛が更に増えて…出産。  おぉう…怖いな……。  俺はひたすら自分のスキルに願掛けだ。確か、苦痛耐性スキルってあったよね。痛み耐えられるって、あったよね。それにかけよう。

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