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17-3 「息子さんをください!」は俺の台詞じゃなかった
そんな事をしていると、不意にドアがノックされた。顔を上げて声をかけると、なんだか渋い顔のユーリスさんが入ってきた。
おや?
「どうしたの、ユーリス」
俺は問いかけた。実は昨日の夜に少し話し合った。「これから夫婦になるんだから、敬語はやめよう」って。染みついたものは抜けないから、まずは練習。今朝からスタートだ。
「すまないマコト、実は君を見舞いたいという人がいて」
「俺を?」
俺のこの世界の知り合いって、ロシュかマーサさんかモリスンさんしかいない。誰だろう?
「すまない、婆が俺の両親に手紙を送ってしまったようなんだ。それで…」
「あっ、ご両親ね」
まぁ、そうだよな。自分の息子に子供が出来ましたって知ったら、親としては驚くし、まずは顔見せろって事になるよな。
でも…ん? 王子様のユーリスさんのご両親って事は…王様と、お妃様……。
俺は腰を上げて青い顔をした。
ちょっと、色々まずい? だって、どこの馬の骨かって奴が王子様のお嫁さんになりたいって、どうなの。あるでしょ、格式とか血筋とか、生まれはどちら? 的な。
「あの、俺…」
何にも持ってない。そのことに、打ちのめされる。大好きだけじゃどうにもならない世界ってのもあって、ユーリスさんは確実にそういう世界の人だ。
「マコト!」
ギュッと抱きしめられて、頬を拭われて、泣いてたって知った。震えてきて、ひたすら「どうしよう」が頭の中を流れた。背中を撫でる手が心強い。
「何があっても守る。それに、俺の父と母はきっとマコトを気に入ってくれる」
「でも、俺何にも持ってない…」
「いいんだ。俺が選んだんだ。それにもし反対するなら、俺はこの国を出るから」
「…え?」
さらっと、なんか言った。俺が見上げると、すごくしっかりと頷いてくれた。
「俺はA級の冒険者だ。マコトと子供くらい、十分に養っていける」
「でも…」
「いいんだ。だから、安心していい。俺が離れる事はないと誓う」
言ってくれる事は嬉しい。嫁冥利にはつきると思う。
けれど、ユーリスはこの国の王子様で、一人息子で、当然継がなきゃいけないものがあって、それを俺の為に捨てるなんて、させていいはずはない。
妙に不安になった。そうしたら、お腹の中もキュッてした。俺の不安をわかっているみたいに、キュゥってしてくる。
「大丈夫。平気。何でもないから」って、何度も思った。何度も言い聞かせた。俺はダメでもこの子は受け入れてもらえる。母親の血筋はダメでも、ちゃんとユーリスの子だから。
俺は何度もそう言って、自分自身も慰めた。
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