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17-5 「息子さんをください!」は俺の台詞じゃなかった
「なんにしても、その子が産まれるまで後4日程度か。国に触れを出して祝賀の準備といっても、間に合わないな」
うっ、そうですよね。これは流石に俺も予想外なんで、なんとも言いがたいので申し訳ないの一言です。スキル優秀すぎるのもどうかって感じです。
今は王様の側にユーリスが座って、俺の隣にはお妃様が座っている。お腹を撫でてくれて、「楽しみね」って言ってくれるのだ。なんだか照れる。俺、男だけれど。
「産まれても1ヶ月は忙しいのだろ? マコトも追われて大変になる。しばらくは騒がせる事なく穏やかに過ごさせたい」
「そうだな。とりあえず産まれた時にそれを知らせ、祝祭と式は落ち着いてからとしよう」
「あぁ、そのようにしてくれ」
「その頃にはお腹もきっとへこんでいるわ。素敵な衣装を仕立てましょうね」
「え?」
俺は少し会話においていかれている。っていうか、何の話だろう?
「この子のお披露目と、貴方の結婚式のお話よ」
「結婚式!」
目を丸くして見てしまう。王様もお妃様も驚いて、ユーリスは苦笑している。
「あら、ユーリスのお嫁さんになって下さるんでしょ?」
「はい、あの、そのつもりですけど……」
俺、そんな先々まで考えていなかった。ってか、考えてないのに先走って子供先でした。色々ごめんなさい!
「母上、マコトはこれでおっとりとしている。その気持ちはあっても、具体的な事などまだ先だと思っていたんだ」
「あら、そうだったの?」
コクコクと頷く。
「子供の事も、まさかこんなに急く事になるとは思わなくて戸惑いが大きい。何ヶ月も先だと思っていたものが、押し寄せるように迫ってきているんだ。本当に、不安が多いのだよ」
俺の気持ちを代弁してくれるように、ユーリスはにっこり笑う。俺は素敵な旦那様を持った。俺の気持ちをちゃんと察して、庇ってくれるようなそんな。
「確かにそうだな。この世界に来て間もないというだけで苦労は多いだろう。そこで子までとなると、色々おぼつかない。マコト、まずは気持ちを安らかに持つ事だ。国の面倒はこちらがやろう。子のお披露目も、君とユーリスの婚礼披露も後々でいい」
「そうね。焦らせる事はないわね」
真っ直ぐに王様は言って、お妃様も「ごめんなさい、気が急いて」と言ってくれた。
ユーリスも頷いてくれて、俺もほっとする。とりあえず俺は、この先本当に間近の出産だけを心配するように言われた。
少しの間和やかに話をして、王様とお妃様は帰っていった。俺はずっと軽くなった胸の内に笑顔になる。不安が消えて、嬉しさが満ちるって凄いね。心なしかお腹の中もゆるんゆるんとしている。
「疲れていないか?」
「ううん、楽しかったし安心した。俺、受け入れてもらえてよかった」
素直に胸の内を明かすと、ユーリスも穏やかに笑って頷いて、俺の頭を撫でている。そしてふと、俺のお腹を撫でた。
「1日でかなり目立つようになったな」
「まぁ、1ヶ月かけてゆっくり大きくなるところを、俺は急加速で大きくなるからさ」
今は更に大きさが増して、服の上からも多少分かる程度になった。少し重い気がするけれど、伸縮性のあるお腹はピッタリと安定してくれる。スキル特化、凄い。
「明日か明後日には、蹴ったりするんじゃないかって言ってたよ」
「蹴るのか!」
「うん。あっ、でもこれもスキルで痛くない。それに、蹴り始めたらユーリスにも分かるよ」
振動が伝わるんだって。そうしたらまた楽しいかもね。
少し赤くなったユーリスは、それでも穏やかに俺のお腹を撫でて、愛しそうに瞳を細めている。
この目、好きなんだ。見守られているような安心感と、愛しんでくれてるみたいな幸せを感じられるから。
何にしても、俺は今幸せだ。そして、「ユーリスさんを俺に下さい」って言うの忘れてた事に気づいた。
でも、言わなくて正解。これ、間違っている。正しくは「俺を貰って下さい」だから。
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