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18-1 竜人の一族って意外といるんだね

 翌日は朝からなんだかゴタゴタした。それというのも、お客さんがきたからだ。 「マコト!」 「ロシュ!」  思えば俺が屋敷を出てから会っていない。懐かしさと申し訳なさで俺は嬉しくなっている。ロシュも満面の笑みを浮かべて俺に走り寄ろうとして、知らない誰かに首根っこを掴まれた。 「ロシュ、妊婦相手に走り寄るな」 「何だよリュミエール!」 「あ・ぶ・な・い! 突進でもして転んだら彼もお腹の子も流れるかもしれないんだぞ」  長い水色の髪の人物が言い聞かせるようにしている。強い青い瞳はサファイアをはめ込んだみたいで綺麗だ。  ロシュも言われて気づいたらしい。格好を正して申し訳なさそうにしている。俺はゆっくりと歩み寄って二人の前に来た。 「初めまして、マコト。僕は青竜一族のリュミエール。ユーリスには幼少の頃からお世話になっている。この度は結婚と妊娠、本当におめでとうございます」 「丁寧に有り難うございます。マコトと申します。今後もどうか、仲良くしてください」  とても礼儀正しいリュミエールの隣で、ロシュはなんだかウズウズしている。 「ロシュ、どうしたの?」 「いや、なんかさ。マコトがユーリスの子を身ごもったなんて聞いて、なんか、嬉しくてさ」 「嬉しい?」 「あったりまえじゃん! だって、ユーリスはずっと子供どうにかしないとって旅してたんだぜ。それに、マコトの事愛してるって。好きでもさ、間に子供出来ないと肩身狭いんだから、こうして一緒にいられるようになって嬉しいんだ」  そんな風にニコニコしているロシュの純粋な好意が嬉しい。  俺も嬉しくなって思わず抱きついた。ますます大きくなっていくお腹が出っ張って、ちょっと邪魔くさい。 「俺も嬉しいよ。有り難う、ロシュ。沢山心配させたのに、お祝いしてくれて」 「当たり前だろ。マコトいい奴だし、ユーリス幸せそうだし何の問題もないよ」 「ロシュはいい奴だな!」  友達にも恵まれたらしい。俺は素直に嬉しくて笑っている。 「おやおや、随分と楽しそうですね」  穏やかな声に俺は顔を上げる。  ユーリスと隣り合って近づいてくる人は、多分ユーリスと同じくらい。短い緑色の髪に、柔和そうな緑色の瞳をした穏やかそうな人だった。 「初めまして、お妃様。私はランセルと申します。緑竜一族の者で、ユーリスとは幼馴染みです」 「初めまして、マコトと申します」 「ふふっ、お可愛らしい。ユーリスが羨ましいくらいの愛らしく素直な方ですね」  見つめる瞳は柔らかなままだが、なんとなく空気が独特だ。俺はちょっと怖くて肩を引いてしまう。初めての人になんて失礼な事をと思うけれど。 「ランセル」 「おや、そのように怒らない事ですよユーリス。大丈夫、人の奥方に手を出すほどの鬼畜ではないと思っております。何よりそんな事をしたら愛する奥様に怒られてしまいます」 「奥さん?」  この人既婚者なんだ。ぼんやりそれだけを認識した。会話の内容はあまり気にしないように意識した。気づきたくないものもありそうだ。  ランセルさんはにっこりと笑って頷いている。 「今年2歳になる息子がおります。お子が産まれましたら改めて、奥様と子を連れてお祝いに参りますよ。私の奥様もね、お妃様と同じく男性なのです。何かと相談したい事などもあるかと存じますので、語らってあげてください」 「男の人なんだ! あっ、有り難うございます! 是非にと、お伝えください」  男の体でどうやって子供を育てればいいのか。俺の疑問を的確に答えてくれそうな人を得られた事は最高に嬉しい。  ランセルさんはにっこり笑って「分かりました」と言ってくれた。

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