2 / 6
2かいめ
Q.オナニーは週何回しますか。
A. 毎 日 で す 。
確かに、そんな問いかけにそんな即答ができるくらい、性欲の強さは自覚している。三大欲求の中では抜きんでている。でも、それって、若さゆえの衝動っていうか、決して珍しいことではないと思う。彼女がいれば毎日抱きたいって思うし、いなくても毎日抜きたいって思うし。
――いやでもだからって、この状況はどうなんだろう。
俺は、布団の上で俺を見下ろす親友こと椎名汀くんを見上げて、たらりと冷や汗を垂らしていた。
「海里」
「な、なんすか」
「一回も二回も変わらないと思わねえか」
汀はイケメンだ。
女の子がクールだなんだときゃーきゃー言う整った顔を近付かせて(ちゅーはしたくない)、囁いてくるので、俺は顔半分をシーツに押し付けた。
「いやあのうんえーと」
「誤魔化すな」
「誤魔化すよね」
「海里」
「はい」
「抜き合おうぜ」
あああ直球だ直球ですねどストレートですね!
逃げようも誤魔化しようもない言葉を囁かれて、俺は言葉に詰まる。今日は別にAVが流れているわけでもない、ただ二人でいつものように夕飯を食って、いつものようにテレビ(ただのバラエティだ)を観ていただけだ。そしたら汀が盛って、ベッドに座っていた俺を押し倒してきたんだ。
「意味わかんない、急すぎるし!」
「溜まってんだろ」
「生憎昨日抜きましたしー」
誰かさんと一緒に、なんてのは言ってやらない。――そう、汀くんと“事故”である抜き合いをしたのは、つい昨日の話である。ああやだ。幾ら仲良いからって、気が合うからって、あんなことがあったのに何事もなくさらっと一日が終わって、また普通に家で遊んじゃう俺たちが嫌だ。
「つうか何、なんなの、いきなり何ムラついてんの」
「昨日を思い出した」
「それだけ?! 若いですねー元気ですねー、AV貸したげるから一人で抜いてってば」
「お前だって若ェだろ、」
「あっ、……ばっ、ばかばかばか」
耳元に囁きながらジーンズ越しに俺の急所を触ってくるから、変な声が出た。誤魔化すために身を捩って罵る。触られて反応するのは仕方ないだろお、男の子だもん。
「ちょっ、まじダメだって汀、」
「反応してるぞ」
「そりゃあねっ、……んっ、ぅ」
揉み込まれてぞくぞくする。すっかり硬くなった俺の分身は、存在を主張してもっこりだ。それに気をよくした汀が、指先でファスナーを下ろしてくる。
「だから待てって……っ、ひぅ、」
「はいはい」
「はいって動きじゃ……っあ、ばか……!」
頷くふりをしながら下着越しに俺の息子を握り締めてくるこいつは、相当変態だと思う。身体は正直で、ぴり、と背中を走り抜けてくる快感を堪えるべく、俺はシーツを握った。
「なにっ、汀って、ホモだったの……っん、」
「違う」
「じゃあなんで……っ、ぅあ、」
「反応するお前が悪い」
「えええ……っん、ん、」
た、確かに声は出ちゃうけどっ。腰は揺れちゃうけどっ。正直、自分でするより気持ちイイけどっ。そんな責任転嫁はないんじゃないでしょうか!
すっかり先走りでぬるぬるで、下着に染みがついた。ああ、お気に入りのボクサーが……。汀は満足そうに俺を見下ろして、下着の隙間から手を差し込み、直接握ってくる。
「ぅわっ」
「もうガチガチ」
「仕方ないでしょ触るんだもん、……っあ、ちょ、」
まって、なんて制止を聞いてくれない。
カウパーまみれの亀頭を親指でぐりぐり撫でられてぞくぞくする。更に溢れたそれを全体に塗り付けられて、上下に擦られる度に、ぐちゅぐちゅと濡れた音が響く。裏筋を撫でられたら、堪らない。
「やっ、まって、まって、……んっ、出ちゃう、からぁ」
がっしりした汀の背中に腕を回して、シャツを引っ張る。こいつの暴走を止めるためだ。若さゆえにもう限界を迎えそうなことを訴えるが、暴走機関車こと椎名汀は俺のを扱く手を止めない。
「だめだっ、て、――っあ、あ、んんっ!」
より一層強く扱かれて、一番弱い先端をぐり、と抉られたら、それが合図になって、俺はイった。熱い白濁が、汀の手を汚す。俺のパンツも汚す。
「っは、あ、は、まじ、しんじらんねー……」
くたりと力が抜けて、全身をベッドに預けながら、俺を見下ろす汀を見上げた。やつは涼しい顔をして、汚れた掌をティッシュで拭っている。
「なんなのお前、まじ、なんなの」
「気持ちよかっただろ?」
「よかったよ! でも意味わかんねーよ!」
正直に答えるが、本当に意味がわからない。ずり下げられた下着を上げようとして、中が濡れていることに気付いた。洗濯機コースだ。
「今度は俺の番だな」
「は? はあ? はあああ?」
当たり前のように告げられた言葉に目を瞠った。何言っちゃってんの。ていうかどうしちゃったの。ひょっとして汀くん、性の目覚めですか。
「思春期男子のお守りなんてごめんだってばー」
「自分だけよくなってずるいと思わねえか」
「だって勝手に触ったんじゃん!」
「腰振って出したのは誰だ」
「俺ですけど!」
お前が触るからでしょうが、なんて抗議は聞き入れてもらえなさそうだ。それどころか、一回出してすっかり力が抜けた俺の分身を、また触ってきやがる。
「なになになに、なにがしたいのー」
もう逃げる気力もないけど、触る汀の手首を掴んで止めた。汀は眉を寄せて俺を見て来る。に、睨まれても怖くないけどねっ。
「海里」
「はい」
「責任取れよ」
うわあ。
手首を掴んだ手を逆に取られて、ジーンズ越しに汀のものに導かれた。何にそんなに興奮したのか知りませんが、もうガッチガチである。
「AVいらずなんてお手軽ですね!」
「あんあん鳴く誰かさんがいるからな」
「そっ、そんな声出してませんー」
首を振って否定するけど、確かに、自分だけよくしてもらって汀のことは放置するっていうのは、同じ男としてちょっと気が退ける。ガチガチで放置される辛さも知っている俺は、諦めの境地で大きな息を吐き出した。
「あーもう、今回だけだからね!」
「その気になったか」
「同情しただけですう」
軽く言い合いながら俺は身体を起こし、汀と向き合った。手を伸ばして、ジーンズのホックを外すところから始める。こうなったら自棄だ、自棄。
「すっげえ気持ちよくしてやんよ」
口端を上げて挑戦的に笑うと、汀が僅かに瞳を見開く。
「やれるもんなら」
格好付けてそういうイケメン(童貞)の親友にイラッとして、俺は本気を出すことを決意した。身体で感じろ、俺のテク……!
――で、どうしてこうなるんでしょうか。
「ちょっ、まっ、おとなしく……んっ」
「気持ちよくしてくれるんだろ?」
「そう、だけど、……ぁふ、」
ジーンズと下着を下ろして、汀のでかいブツを取り出して扱いてやったまではよかった。鈴口からぬるぬるとした先走りが出てきた辺りで、俺も気分をよくしたのは本当だ。相手が女の子じゃなくても、きちんと反応があるのは嬉しい。ぐちゅぐちゅと濡れた音を立てながら両手で握り込んで上下に扱いていたら、「ん……っ」と汀の声が洩れてきたのが耳に入って、更に勢いがついた。
「きもちよさそー、汀ちゃん」
「うるせ、」
「ぅえ」
茶化すように言ってしまったのが、最大の失敗だったかもしれない……。汀が舌打ちをして、今までされるがままだったくせに、いきなり俺のものを握り込んできた。だから、さっき出したばっかりだってば! なんで反応しちゃうかな、俺……。
「っあ、今汀の番……ッん、」
「コレが一番良い」
「悪趣味ィ……っふぁ」
少し握られて揉まれただけで硬くなって上を向く俺のものをしっかりと握り込み、ぬるぬる先走りを溢れさせる汀のものと合わせられる。どくどくと脈打つ感覚を直接感じて、ぞわりとした。
「んっ、……ぁ、」
男二人のペニスが触れ合って、先端からカウパーを流し合ってる姿はグロいはずなのに、視覚的にも煽られて、俺はぎゅっと目を瞑った。こんなの知らない、知りたくない。
「海里」
「んっ、……ぁ、あっ」
吐息混じりに囁くなってばー! 内腿が震えてぞくぞくする。その間も汀は、二人のものを一緒に握り締めて上下に動かしてくる。熱いものに裏筋が擦られて、背中を駆けあがってくる直接的な快感に、じわりと目尻が熱くなる。気持ちよすぎて泣けるなんて、初めて知った。――いやだから、知りたくないってば……。
「ぅん、ん、……っあ、なぎさ、」
「っふ……、ん」
「だめ、だって、……ふ、ぁ、んっ」
「すげえ、ぬるぬる」
「おたがい、さま、……っぅあ、っ」
ぬるつく亀頭を親指で擦られて腰が揺れる。気持ち良いのに抗えなくて、両手をベッドについて、自分から腰を突き出した。
「腰、動いてるぞ」
「うるせ、……ひぅ、あっ」
意地悪な囁きに言い返す声も、先端を突かれると高いものに変わる。込み上げてくる射精感を誤魔化せなくて、ゆるゆると首を横に振った。
「なぎさ、……んっ、ん、も、いく、」
「早ェ」
「うえっ、え、」
ち、と舌打ちをした汀が、しっかりと俺の性器の根元を指で握り締めてきて目を丸めた。吐き出したいのに吐き出せなくて、俺の欲がぐるぐる堰き止められている感覚に、眉を寄せる。それでも、刺激が止まない。
「やだ、や、……ぁ、んっ、ぅ」
「もうちょい、我慢しとけ」
「むり、っあ、……んっ、んん、」
イきたいのにイけなくて、でも気持ちいいのは止まらなくて、先端からじわりと白濁混じりの先走りが零れた。ちょっとイったよね、これ!
「もお、や、……ぁ、あっ」
「っふ、……海里、」
「だめ、ん、ぅあ、やっ、待っ……ふぁ、あ――ッ!」
何がきっかけになったのか知らないけど、不意に指先の動きが激しくなった。汀の腰が揺れている。ぐちゅぐちゅと濡れた音が響いて、汀が俺の先端に指を立ててくる。ピリとした痛みに強い快感が走って、それと同時に、根元の戒めを解かれて、全身がビクビクと震えた。先端から、とろりとした白濁が溢れる。熱いものが内腿に掛かって、汀も達したのがわかった。
「っは、あ、っは、ふ、……」
ぽすり、全身の力が抜けて、ベッドの上に沈み込んだ。荒い息を吐くことしかできない。ちらりと視線を上げて汀を見たら、同じように肩で息をしているのがわかった。
「まじ、さいあく……」
「気持ちよかったぞ?」
「なに真顔で言ってんの……」
もー信じらんない。色々有り得ない。なんで二日連続、親友とガチな抜きっこをしなきゃいけないの……。
「あーもう、わけわかんねー」
「お前もよかっただろ」
「断定口調止めてくんない?」
よかったけど、認めたくない。
汀がティッシュで汚れを拭っているのを横目に、何もする気が起きなくて、俺はされるがままになった。
「一人でするより、良いんじゃねえか」
全部きれいにしてくれながら、汀が真顔で言うのに、かっと顔が熱くなる。うわあ恥ずかしい、まじ恥ずかしいからやめてほしい。
「そりゃあね! ……言っとくけど、一人でするときはあんなに喘がないからねっ」
「お前、……なんでもない」
「えっ、なに!」
「いや……彼女とするときは喘ぐのか」
「喘ぎません!」
ちょっとしか!
すっかり身支度を整えてなんでもないような顔をしている親友を見上げ、俺は大きな息を吐き出した。
「もー、汀くんわけわかんない」
「お前の有り余る性欲を解消してやってんだろ」
「大きなお世話ですう」
ぽんぽんと髪を撫でられるけれど、絆されるもんか。
寝るか、と言いながら俺の隣に横になる汀に、ぎょっとする。
「えっ、なんで隣」
「いいだろ」
「よくないっ」
「もう寝る、おやすみ」
「おやすみ! じゃなくてー」
あ、もう目瞑りやがった。
仕方ないから布団をかけてやる俺、超やさしい。
色々後始末をしてから、結局俺もベッドに戻って、汀の隣で寝ることにした。――だから、浮気じゃないってば。
ともだちにシェアしよう!