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透2
その夜、透は大学時代の友人と飲みに出かけた。
山口はざっくばらんとした性格で、大学時代は一番気の合う友人だった。
社会人になってお互い忙しい身になった今でも、時々こうして時間を作り一緒に飲みに出かけている。
今夜は二か月ぶりだった。
「透って彼女できた?」
「残念ながら独り身だよ。出会いもないし」
「あれ~、今度こそ当たりだと思ったけどなぁ」
おかしいなぁと、頭をかきながら山口が言う。
「前回も聞いてきたけど、なんなんだよ?」
居酒屋で腰を落ち着け、お互いの近況など話していたら、また聞かれた。
前回会ったときも、彼女ができただろうとしつこく聞かれたのだ。
「いや、透の雰囲気が変わったからさ」
「どんなふうに?」
「いやぁ……色気が出たというかぁ。年明けからかな? 大人な雰囲気になったというか」
透は密かにギクリとした。
年明け……というと、彰広と別れてからだろう。
「だから、奥手の透ちゃんもいよいよ本気になったのかなぁと思って」
「……なんだよ、それ」
「今まで彼女がいたこともあったけど、透ってどこかで冷めてるってゆうか、淡泊じゃん。今、良い感じに色気出てるから、こりゃーどっかの主婦と不倫でもしてんのかなぁ、とか」
「お前、失礼な奴だな。生徒の母親に手を出したりしないぞ。俺は!」
透は乾いた笑いでその場を濁した。
山口は以外と鋭い。
外見はどこも変わっていないが、確かに透の中身はあの三日間で作り替えられてしまった。
それが、山口の言う色気なのかどうかは分からないが。
あれから自分でもそのテの男同士の動画やサイトなどを見てみたが、気色悪いだけで逆に吐き気がした。
彰広だけなのだ。自分には。
彰広だけが特別で、忘れることなどできない。
けれど……今、彰広がどこに住んでいるのかも知らない。
彰広は実家とは縁を切っているし、共通の友人も居らず、連絡先も変わっていた。
もう二度と透に会う気はないのだろう。
透は鬱屈した感情を押し殺して、山口とたわいもない話に盛り上がっているふりをした。
今夜は少し飲みすぎた。
珍しくほろ酔い状態で、山口と駅に向かって歩く。週末の繁華街は賑わっていた。
「すげぇ美人」
歩みを止めた山口の声に、向かいの通りを見れば、体にフィットしたドレスを着た女優のような美しい女がいた。
車から降りてくる客を出迎えにきたらしい。
「高級クラブかぁ~。俺たちには縁のない世界だなぁ」
耳を項垂れた犬のように物欲しげに見ている山口に透はクスリと笑う。
だが、すぐに凍り付いたように固まった。
山口が見惚れた女が出迎えた相手は、遠目からでも分かる。
彰広だった。
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