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透3

  黒いスーツに身を包んだ長身の美丈夫。 見間違えるはずがない。 ───彰広!! 「男の方も只者じゃない感じ。すげぇ色男だなぁ」 山口の声も耳に入らない。 ただただ、透の視線は彰広に注がれ続ける。 半年ぶりに見る彰広は相変わらず男の魅力に溢れていた。 ふと、彰広がこちらを向いた。 透の心臓が痛い程に高鳴る。 確かに透を見たはずだったが、ふいと視線を反らされる。 彰広の視線の先には、例の美しい女がいた。 透の胸がズキリと傷んだ。 「行こうぜ、透。俺、明日も午後から休日出勤なんだよ」 山口が透の肩を組むように抱き、駅へと向かう。 「……あ、ああ」 透は止めていた歩みを進めた。 山口が何か話していたが、ほとんど耳に入らず空返事をする。 もうすぐ目的の駅に着く……透は足を止めて山口に告げた。 「悪い。ちょっと急用を思い出した。先に帰っててくれ」 「透?」 「またメールする」 透は今来た道を引き返した。 先程の高級クラブの向かい側で、壁を背に立つ。 何をしているんだろう。自分は。 ここで彰広を待っていて意味があるのだろうか。 さっきも興味なさげに視線を反らされた。 彰広にとってはあの三日間で十分だったのだろう。もう彰広は自分に興味はない……。 昔から男にも女にも人気があって、さっきも女優のような美しい女性を連れ立っていた。 彰広の男ぶりを引き立てるようなキレイな女だった。 透は俯いて履き古したスニーカーを見つめた。 ───バカみたいだ……。 壁に背を預け、気持ちはどんどん沈んでゆくのにその場所を離れることができなかった。 その肩に手をのせられ、ハッとして顔を上げた。

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