8 / 25

交錯1

  しばらくその場に佇んでいた透は肩に手を置かれ、ハッとして顔を上げた。 「……!?」 「中山先生。こんなところで何をしているんです?」 黒田が透の肩に手を置き、親しげに話しかけていた。 ───どうしてこんなところで!? 透は唖然と黒田を見上げた。 「あの……黒田先生こそ、なぜ?」 「少し用事があったもので。偶然、あなたを見かけたんですよ」 黒田の手は透の肩に触れたままだった。 早く手を離してほしい。 「そうなんですか。俺はもう帰るところなんです」 透は少し体を引き、黒田から離れようとするが、黒田は逆に透の肩を掴むように力を込めた。 「!?」 先程まで彰広を想い憂鬱な気持ちに支配されていたのだ。 今、黒田の話相手などしたくはない。 「あの、手を離し……」 「お友達は帰ったんでしょう?」 「え?」 黒田が一歩、透に近付く。 「どうして駅から引き返したんです」 透はぎょっとして、一歩下がった。 「なんで……」 だが、透が引いた分だけ、黒田は詰め寄る。 例のじっとりとした目つきで透を見つめた。 「そんな寂しげな顔をして。誰かに声をかけられるのを待っていたんですか?」 「……ッ!?」 透の頬に朱が走る。 未練がましく会えるかも分からない彰広を待っていたのだから。苦手な相手に図星を刺されて恥ずかしくなる。 「なんでもないです。いい加減手を離してください! もう帰りますので」 黒田の手を振り払い、背を向けて透は足早に歩き出した。 同僚教師に対して感じが悪かったかもしれないが、かまうものか。 早く一人になりたかった。 「あっ!?」 振り返ることなく逃げるように歩いていた透は、急に強い力で腕を掴まれ、路地裏に引きずり込まれた。   「……なっ!? なにをするんです!!」 黒田にぐいぐいと腕を引かれ、路地裏の人気の無い場所まで引きずられる。 ───こいつ! なんでこんなに力が強いんだよ!? 一見、優男にも見えるのに、黒田の力は思いのほか強く、振りほどくことができない。 終始無言の黒田を不気味に感じて、同僚に対する遠慮を捨て透は怒鳴る。 「離せよ!! なんなんだよ!? あんた、いい加減にしろよっ!」 壁に叩きつけられ、したたかに背中を打ち付けた。 「痛っ……!」 両肩を掴まれて、壁に押し付けられる。 頭一つ分、背の高い黒田を見上げる形になる。 「物欲しそうな顔をして……男を漁ってたんじゃないんですか?」 「は?」 「俺じゃだめですか? 中山先生」 なに言ってんだ? こいつ。 透は寒気を覚える。 「い、意味が分かりません。いい加減に離してください!」 透は黒田の手を振りほどこうと暴れると、体を返され今度は顔を壁に押し付けるように押さえつけられる。 「なにすんだよ!……ぅあッ!?」 右腕を捻りあげられ、痛みに一瞬息が止まる。 透は動けなくなり、嫌な汗が背を伝う。 黒田は蝶のように壁に縫いとめた透の背中にぴったりと密着する。 「ひっ!!」 うそだろ……! こいつ、勃ってる!? 「……いい加減、焦らされるのも飽きたんですよ」 黒田が透の耳に囁く。 「な……なにがっ!?」 黒田がもう一方の手で透の腰を撫でる。 透の体がビクッと跳ねる。 「中山先生……男を知っている体ですよね?」 「なっ!?」 透の尻に腰を押し付け、布越しに固くなったモノをぐいと擦り付ける。 「……ッ!!」 「あなたは変わった。冬休み中に何があったんです。寂しげな、物欲しげな顔をして……誘っていたくせに」 「な……何、言ってるんだ……あんた、おかしいんじゃないのか!?」 黒田は透の髪を掴み、ぐっと喉を反らせた。 限界まで首が反り、苦しさに透は呻き、目に生理的な涙が浮かぶ。 「……ううっ……あ」 耳元に黒田の荒い息がかかる。 「やっぱり、中山先生は苦しそうな表情が似合いますね……」 「……やめっ……いぁ!」 黒田に耳の裏を舐めあげられる。透は嫌悪感に体を震わせた。 嫌だ! いやだいやだ!! いやだ!! こんな奴に!! ───彰広っ!!

ともだちにシェアしよう!