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交錯1
しばらくその場に佇んでいた透は肩に手を置かれ、ハッとして顔を上げた。
「……!?」
「中山先生。こんなところで何をしているんです?」
黒田が透の肩に手を置き、親しげに話しかけていた。
───どうしてこんなところで!?
透は唖然と黒田を見上げた。
「あの……黒田先生こそ、なぜ?」
「少し用事があったもので。偶然、あなたを見かけたんですよ」
黒田の手は透の肩に触れたままだった。
早く手を離してほしい。
「そうなんですか。俺はもう帰るところなんです」
透は少し体を引き、黒田から離れようとするが、黒田は逆に透の肩を掴むように力を込めた。
「!?」
先程まで彰広を想い憂鬱な気持ちに支配されていたのだ。 今、黒田の話相手などしたくはない。
「あの、手を離し……」
「お友達は帰ったんでしょう?」
「え?」
黒田が一歩、透に近付く。
「どうして駅から引き返したんです」
透はぎょっとして、一歩下がった。
「なんで……」
だが、透が引いた分だけ、黒田は詰め寄る。
例のじっとりとした目つきで透を見つめた。
「そんな寂しげな顔をして。誰かに声をかけられるのを待っていたんですか?」
「……ッ!?」
透の頬に朱が走る。
未練がましく会えるかも分からない彰広を待っていたのだから。苦手な相手に図星を刺されて恥ずかしくなる。
「なんでもないです。いい加減手を離してください! もう帰りますので」
黒田の手を振り払い、背を向けて透は足早に歩き出した。
同僚教師に対して感じが悪かったかもしれないが、かまうものか。 早く一人になりたかった。
「あっ!?」
振り返ることなく逃げるように歩いていた透は、急に強い力で腕を掴まれ、路地裏に引きずり込まれた。
「……なっ!? なにをするんです!!」
黒田にぐいぐいと腕を引かれ、路地裏の人気の無い場所まで引きずられる。
───こいつ! なんでこんなに力が強いんだよ!?
一見、優男にも見えるのに、黒田の力は思いのほか強く、振りほどくことができない。
終始無言の黒田を不気味に感じて、同僚に対する遠慮を捨て透は怒鳴る。
「離せよ!! なんなんだよ!? あんた、いい加減にしろよっ!」
壁に叩きつけられ、したたかに背中を打ち付けた。
「痛っ……!」
両肩を掴まれて、壁に押し付けられる。
頭一つ分、背の高い黒田を見上げる形になる。
「物欲しそうな顔をして……男を漁ってたんじゃないんですか?」
「は?」
「俺じゃだめですか? 中山先生」
なに言ってんだ? こいつ。
透は寒気を覚える。
「い、意味が分かりません。いい加減に離してください!」
透は黒田の手を振りほどこうと暴れると、体を返され今度は顔を壁に押し付けるように押さえつけられる。
「なにすんだよ!……ぅあッ!?」
右腕を捻りあげられ、痛みに一瞬息が止まる。
透は動けなくなり、嫌な汗が背を伝う。
黒田は蝶のように壁に縫いとめた透の背中にぴったりと密着する。
「ひっ!!」
うそだろ……! こいつ、勃ってる!?
「……いい加減、焦らされるのも飽きたんですよ」
黒田が透の耳に囁く。
「な……なにがっ!?」
黒田がもう一方の手で透の腰を撫でる。
透の体がビクッと跳ねる。
「中山先生……男を知っている体ですよね?」
「なっ!?」
透の尻に腰を押し付け、布越しに固くなったモノをぐいと擦り付ける。
「……ッ!!」
「あなたは変わった。冬休み中に何があったんです。寂しげな、物欲しげな顔をして……誘っていたくせに」
「な……何、言ってるんだ……あんた、おかしいんじゃないのか!?」
黒田は透の髪を掴み、ぐっと喉を反らせた。
限界まで首が反り、苦しさに透は呻き、目に生理的な涙が浮かぶ。
「……ううっ……あ」
耳元に黒田の荒い息がかかる。
「やっぱり、中山先生は苦しそうな表情が似合いますね……」
「……やめっ……いぁ!」
黒田に耳の裏を舐めあげられる。透は嫌悪感に体を震わせた。
嫌だ! いやだいやだ!! いやだ!! こんな奴に!!
───彰広っ!!
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