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交錯2
急に拘束が解かれ、透はズルズルと壁にすがるようにうずくまった。
「……!? ハッ、ハァッ……ゲホッ」
鈍い音が聞こえ、視線を上げると黒田が逞しい体躯の男に蹴り上げられていた。
───彰広!!
彰広が無表情で黒田を蹴り続けていた。
まずい! やりすぎだ。
彰広は高校の頃から喧嘩が強かったが、無表情になっているときは完全にキレているときで、まったく加減をせずに相手を叩き潰してしまう。
「……あ、彰広っ!! もういい。やめろ!!」
透は慌てて彰広の腕を掴む。
振り向いて透の方を見た彰広は、苛立った目で透を睨んだ。
「……何をやっているんだ。お前は」
「あ……」
「来い!」
彰広は低い声で命じるように言い、透の腕を掴んで歩き出した。
最低な男だが一応同僚なので、透は足を止め黒田を気にするそぶりを見せた。
そんな透に彰広は更に苛立ち、舌打ちをして透を肩に担ぎあげた。
「なっ!?」
いい歳をした大の男が抱き上げられているなんて、見られたものじゃない。
「ちょっ! 降ろせよ!! 彰広!」
彰広は無言のまま透を担いで大股に歩き、ベンツの後部座席に押し込んだ。
「出せ」
運転手に低く命じる。
「あ、彰広」
密室に近い状態の車の中で、隣に座る彰広は怒りを隠そうともしない。
そのオーラに押されて、透は一言も発せずに黙って座っていた。
気まずい空気のまま、しばらく走ってから車は静かに止まった。
「降りろ」
透は黙って彰広に従う。いわゆる高級マンションの前だった。
「……」
「何してる。ついて来い」
黙って立っていると、また彰広に命じられるように言われた。
透はしぶしぶ彰広について歩き、マンションの中へとついて入った。
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