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嫉妬1
生活感のあまり感じられないシンプルな部屋だが、センスの良いもので揃えられている。
「ここ、お前の家?」
「……ああ」
彰広らしいといえば彰広らしい部屋だった。
彰広はスーツのジャケットを脱いでソファに座り、苛立った様子でタバコを銜える。
あんなにも会いたかった相手なのに……気不味い空気に居たたまれず立ち尽くし、ぼんやりとタバコの煙が燻るのを眺めた。
「……さっきの」
「えっ?」
「さっきの男は何なんだ?」
黒田のことだろう。
「小学校の同僚の教師で……なんか、前から変な奴だったんだけど…… あんなこと初めてで、俺もびっくりし……」
「最初に一緒だった男は?」
「あ、山口は大学の時の友達……」
なんだか尋問されてるみたいで居心地が悪い。
「男をとっかえひっかえか。やるじゃないか、透」
「なっ!? 違う!!」
透はカッとなり、彰広を睨んだ。
彰広は冷めた目で透を見ている。
彰広が何を考えているのか分からない。彰広の冷たい視線を浴びて、透は体の芯から冷えていくような感覚に陥る。
凍り付いたように立ち尽くしていると、彰広が立ち上がった。
無言で透の横を通り過ぎようとするのを、思わず彰広の腕を掴み留めた。
「どこへ行くんだ?」
彰広は少し驚いたような顔をした。
───あの女のところへ戻るのだろうか?
今まで一度も感じたことのないような、どす黒い感情が透の胸の中に渦巻いていた。
子供の頃から彰広は透との約束を最優先してきた。
十代の性に奔放だった時期でさえ、女のもとへ行くよりも透を選んだくらいなのに。
「……あの女の人のところへ行くのか?」
「透?」
「行くなよ、彰広。戻らないでくれ」
透はすがるように彰広の腕を掴んで、まっすぐに見つめながら告げた。
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