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接吻3

彰広が目覚めたとき、腕の中に透がいた。 明け方まで彰広に抱かれ、少しやつれた色っぽい顔で眠っている。その頬にそっと触れてみた。 眠る透の体温が夢ではないのだと実感させてくれる。 彰広は昨夜の透を思い出していた。 この半年間の飢えが満たされているのを感じると同時に、また新たに執着心が生まれている。 目覚めた透が、昨夜は気の迷いだったと言わないだろうか…… 彰広が三日間かけて教えた男同士のセックスの誘惑に惑わされただけで、目覚めればその瞳に後悔の色を浮かべるのではないか……。 どちらにせよ、彰広はもう透を手放すことができないと痛感していた。 眠る透のこめかみから頬、顎先から唇へと指先を滑らせる。 そのまま彰広は透に軽く口づけ、薄く開いた唇にそっと舌を差し入れる。 起こさないように口づけたつもりが、透は自ら舌を差し出し絡めてきた。 「!」 軽く驚き、引き下がる彰広の舌を追いかけて、透の唇が彰広の唇に吸い付く。 煽られた彰広は透の肩を抱き寄せ、口づけを深くした。 透は彰広の髪に手を差し入れ、昨夜のように乱していく。 ひとしきりキスを味わい、ゆっくりと唇をほどいた。 濡れた唇のまま、透は彰広を見つめている。 ───ああ、この目だ。 彰広の母親は幼い頃に男を作って出て行った。父親は器の小さい男だった。 扱いにくい子供だった彰広を腫れ物のように思い、距離を取って接した。 荒れた十代の頃、大人は彰広を持て余し、見て見ぬふりをした。 同年代の男や女からは恐れか羨望か憧れ、そして欲望の目で見られた。 でも、透だけは変わらない。幼い頃からずっと。 問題児だろうが、不良だろうが、極道だろうが、そこにフィルターはかからない。 「彰広」を、ただ「彰広」として見る。 たとえその瞳に欲情や嫉妬、執着心が混じった今でさえ、奥底では変わらず、まっすぐに「彰広」を見る。 透を自分の手で変えてしまいたいのに、変わってほしくはない。 透に見つめられ、その矛盾した己の欲望は、実は叶っているのだと感じた。 「……透」 「彰広……また、会いに来てもいいか……?」 透の言葉には何の駆け引きもなかった。 「……ああ」 薄く微笑み、彰広は答えた。 そうして、もう一度……透の唇に口づけた。 end

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