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夏期休暇1

朝顔の鉢植えを手に透は走っていた。 今日は七月最後の登校日で、明日から夏休みだ。 「高田!!」 「あ、中山せんせ~。オレの朝顔じゃん!」 下校している数人の生徒の一人を校門を出たところで捕まえた。 「……はぁっ……お前、なんでこんな目立つもの忘れるんだよ」 のんびりとした生徒の声に、透はがくりと項垂れる。 透が担任をしている3年A組の、この高田という生徒は大らかでマイペース、そして何かと忘れ物が多いのだ。 「さっすが中山せんせ~!」 高田は透の脚に子猿のようにしがみついた。 「こら。ちゃんと観察日記を付けるんだぞ」 「は~い。せんせ~さよ~なら~!」 「はい。さようなら」 透はひらひらと手を振り、生徒を見送った。 ふと視線を感じて振り返ると…… 少し離れた場所に車に凭れるようにして彰広が立っていた。 「あっ!」 彰広はいつものスーツではなく、黒のVネックにデニムで、髪も自然におろしていた。 「どうも、中山先生」 面白そうな笑みを浮かべて、透に声をかけた。 雰囲気の違う彰広にドキリとしながら、透は駆け寄る。 「ど、どうして?」 「今日から夏休みだって言ってただろ?」 彰広は透に会いにきたのだと言う。 「あ、まだ仕事あるけど」 「終わったら電話しろ。迎えに来る」 「うん」 約三週間前に夜の街で彰広と再会してから、よく二人で会うようになった。 時間が合えば食事に出かけたり、週末は彰広の家で過ごした。 部屋の鍵と、彰広との連絡専用に新しいスマホまで渡されていた。 七年間の空白など無かったかのように、透と彰広は一緒にいることが増えた。 昔と大きく違っているのは、二人が体の関係を持つようになったことだ。

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