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夏期休暇4
彰広と透は一時間ほどで居酒屋を出た。車は置いたまま、歩いて透の部屋へ向かう。
「透ちゃん先生~!」
奥さんに呼び止められ、透は彰広を待たせて店に引き返した。
「これ、松永さんに名古屋のお土産もろてんけど。おすそわけ。味噌煮込みうどんセットやて」
「わ。ありがとうございます」
「よかったらあのイケメンちゃんにもあげてな~」
奥さんは一人暮らしの透になにかと世話を焼いてくれるのだ。
「透ちゃんせんせ~!」
「わっ!?」
奥さんと話していたら、後ろからガバっと抱き付かれた。
「上田君」
作業着の若者が透に甘えるように抱き付いていた。
「こら。先生に迷惑だろ」
「前田さん。こんばんは」
前田は透のクラスの生徒の父親で、建築会社の社長さんだ。
会社の若いのを連れて、この居酒屋によく来ている。
今日も上田の他に三人連れてきたようだ。
「先生、いつも恵美がお世話になってます」
「いえいえ。あ、恵美ちゃん夏休みはパパと北海道旅行に行くんだって、とても楽しみにしていましたよ」
前田は娘の話に人の良い笑顔を浮かべる。
「先生、良かったらご一緒にどうです?」
「ありがとうございます。でも、もう帰るところなんです」
「そうですか。また、ぜひ」
上田が残念そうに透にぎゅうぎゅうしがみついた。
「ええ~、透ちゃん先生、帰っちゃうんですか?」
前田や上田とはこの居酒屋で会うことが何度かあり、なぜか上田は透に懐いていた。
「ごめんね。また今度」
前田達と別れて、彰広のもとへ走る。
「悪い。待たせた」
「……ああ」
「彰広?」
彰広はあからさまに不機嫌な顔をしている。
「さっさと帰るぞ」
「うん」
また少し、透の心は不安になった。
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