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第87話
由斗side
「私はもうあの子に会う気はありません。すいません」
とても綺麗な女性が俯いている。路夏の母親だ。
その隣に小学生の子供が二人。この子たちが路夏の…
「私は…あの子の親じゃない…」
「お母さん…僕は…お兄ちゃんに会いたい…」
「子供はいない!!あなたとこの子しかいない!!」
「お母さん…どうして?どうしてそんなこと言うの?僕は知ってるよ。お母さんお兄ちゃんのお写真…宝箱に入れてる」
「…ごめんなさい…ごめんなさい…」
「お母さん…」
「本当にいいですか?あなたたちの籍から抜いても。俺にはあなたが路夏を嫌ってるようには見えません。」
「こんな私がどんな顔をしてあの子に会えと?あの子のことを捨てた…私…」
「…捨てた訳じゃないでしょ?」
「…私…」
路夏の両親が愛情を注げなくなった理由は…
「僕が…体が弱かった…そのせいで母さんはお兄ちゃんのところに行けなかった…そんな自分自身を許せなくてこうなっちゃったんでしょ?もう僕は大丈夫だよ。お医者様も言ってたでしょ?もう大丈夫って」
「でも…」
妊娠した子供は三つ子だった。
一人は育ちきれず生む前に亡くなり残った二人のうち上の子である女の子…優芽ちゃんは何とか健康に生まれたけれど弟である彼、紡くんはとても体が弱く予断を許さない状態だった。
一人が無事生まれてこれなかったことで母は己を責めその反動からか過剰に紡くんを気にした。
彼は幼い頃から入退院と手術を繰り返していた。
精神的に追い詰められていたから路夏のことを思う…愛する余裕が無くなってしまっただけ…
「路夏はまだ目覚めません。あなたからも話しかけてくれませんか?」
そして病院に恐怖心がある。寝たきりの路夏に冷静に会いにいける自信がないのだ
「優芽ちゃんも僕もお父さんも一緒に行くから…ね?お医者さんも飛行機に乗るのも長時間の移動ももう問題ないって行ってくれたんだから行こう?会いに行こう?」
本当は路夏のことだっていらないわけじゃなかった。
それがわかっていたから路夏は沢山我慢してた。
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