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更紗の場合/19
「美芳っ!!はぁ…はぁ…」
次に意識を取り戻したときに見えた姿は…愛しい人ではなかった…
「起きたか?更紗」
「賢人?何で…?」
目の前にいたのはかつての友人だった
「久しぶり。ここは俺の親父の病院だ」
「美芳は?」
「…力堂さんは逮捕されたよ。あの部屋にいた誰かが通報したみたい。救急と警察に。部屋に踏み込んだ時力堂さんは自分の腹を刺してた…」
「え…?生きてるんだよね」
「あぁ。生きてるよ。ただ…まだ目覚めてないし…面会は出来ない」
「そんな…」
賢人は高校卒業後は警察官になっていた。
たまたま管轄内で踏み込んだメンバーの中にいたようだ
「美芳…美芳…」
「あぁ…もう!泣くなって…あーあー」
賢人が戸惑いながら撫で抱き締めてくれた。
子供のように泣きじゃくる俺を優しく慰めてくれる…
賢人ってこんなに大きな人だったかな?
「賢人ぉ…俺が…俺のせいだよぉ…」
「そうかもしんないな。でもさ力堂さんがそれを選んだ。決めたのは力堂さんであってお前じゃない。だから…泣くな…力堂さんのしたことが無駄になってしまう…」
「美芳ぃ…っ…」
「お前は昔から自分のことでは泣かないのな。変わってなくて何かホッとしたわ」
「俺なんて…どうでもいい…どんなに酷くされたって良かった…それなのに…俺が関わる人はみんな苦しい思いしちゃう…両親だって…祖父母だって…
琉輝さんだって…亡くなっちゃったし…智輝だってミッチーのことで今とても苦しんでる…美芳はなんなくても良かった殺人犯になっちゃった…俺が好きになる人はみんな…不幸になってっちゃう…俺なんて…っ…」
言葉を切られたと思ったら賢人に唇を重ねられていた
深い深い甘く痺れるようなキス…
ゆっくり離されたとき二人の間を銀糸が繋いでいた
「賢人…?」
「自分なんかって言うな…みんな更紗だから愛していたんだろ?お前がそんなこと言ってたら…みんなのこと…お前を愛してくれるみんなのこと否定するのと変わらない…だから…自分なんかって言うな!」
「だって…」
するとまた唇を塞がれる。
「お前がそんなこと言い続けるなら何度でも…お前が嫌がっても口を塞いでやる」
「賢人…」
「お前は何も悪くない!わかれ。更紗」
賢人…強くなった…?賢人もどちらかと言うと自分に自信がない人だったはず…
試合当日はフィールドに立つまでは俺なんてっていつもカタカタ震えてて…それを智輝が励まして送り出してた。
賢人は智輝が見ているから頑張れてた…
賢人は智輝がたまたま自分が落ち込んでる時に通りがかったから都合がよかっただけだって言ってたけど…本当は…とても大好きになっていったんだよね?
「更紗。また自分なんかって言いたくなったら俺を呼べ。俺が全力で否定してやる。俺が…智輝にしてもらったみたいに。俺ならお前のことわかってやれるはずだから」
「けんとぉ…あぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「大丈夫だよ…更紗…大丈夫…」
賢人の腕の中はどこか暖かくて…安心できた…
一頻り泣いた俺は疲れまた眠った
「更紗…お前は自分自身を認めてやれよ…自分を…愛して?」
賢人の祈るような柔らかい声…眠った俺には届かなかった。
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