262 / 321
空雅の場合/75
その後萌葱との生活は平穏そのもの。
店に通ってきてくれていたときみたいにただの友人として過ごす日もあれば濃厚に絡み合うこともある。
ケンカなんかしたこともないし愛されてるっていう実感もあった。
でもやっぱり時折萌葱は切なそうに顔を歪めることもあってあの人のこと忘れることは出来ていないんだって…その現実は僕を何度も苦しめる
「緋色…」
隣で眠っている萌葱がそう呟いた…今日も…か…
さらさらの萌葱の髪を撫でてそっとベッドから出た。
ベランダに出るとひんやりした風が体を撫でる。
苦しいな…頬を伝うものをそのままに空を見上げる。
「ねぇ。緋色さん。本当にこのままでいいのかな?」
空はどこまでも繋がってる。届くわけはないけれどもう習慣になってた。
もういっそのこと緋色さんを探しだして無理矢理にでも萌葱にあわせてやろうか…何度も何度も考える。
おそらく智輝や八尋さんや紫水に相談したら手伝ってくれる。
案外すぐに見つかる気もしてる。今は由斗も向こうにいるし由斗に話しても動いてくれるのかもしれない…律や深雪だって…
でもそうしないのは僕がまだ萌葱と離れる準備ができてないから。
「まだ…一緒にいたいよ…」
でも…萌葱にとってこれは良くないってことはひしひしと感じている。
「どうすればいいんだろう…」
「空雅?どうしたの?」
空を見上げてたら萌葱がやって来て後ろから抱き締めてくれた
「泣いてた?何かあったの?」
涙の痕に気づかれてしまったみたい…
「ううん。目が覚めちゃって星見てたら目にゴミ入っちゃった」
「空雅…ねぇ…俺といるの辛い?」
「そんなわけないでしょ?」
「それなら…いいんだけど」
優しく口付けをしてまたきゅっと抱き締めてくれる。大きな暖かい腕の中。そっと目を閉じた
「萌葱…大好きだよ」
「うん。俺も空雅が大好き。ほら冷たくなってる…部屋に戻ろう」
「うん」
萌葱に手を引かれ寝室へ戻る萌葱は僕を抱き締めたまままた夢の中へと…
「寝るの早いなぁ…子供みたい…」
ふふっと笑って僕も目を閉じた…
もう少し…もう少し時間を頂戴…
ともだちにシェアしよう!