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空雅の場合/76
そうして穏やかなときが流れ気付けば一年以上が経過していた
こんなにも長く一緒にいられるなんて想像していなかった
最近寝言で緋色さんの名前を呟くことは随分と少なくなっていたけれど仕事が以前よりさらに忙しくなって帰宅しないことも増えている
会えないと寂しいしうまく眠れない…前と比べたらましになったとは思うけど
「空雅」
「ん?」
「あのさ。俺の両親に会わせたいんだけど…」
それは突然の出来事だった
「へ?ご両親に?」
「どんな人と今一緒にいるのか気になるみたいでね」
萌葱は大切にされてるんだね…少し羨ましい…そんな頃もあったはずなのに…
「空雅?」
「ごめん、何でもない。僕はいつでもいいよ。萌葱のスケジュールどうなってる?」
そうして今日。ご両親の気に入っているお店で会うことになった。
「ねぇ。本当にこんな格好でよかったの?」
「うん、問題ないよ」
萌葱に手を引かれて店に入り案内通りに席に向かうと既に二人の姿があった。
萌葱は父親に似てるんだな…色素は全体的に薄いからそこは母親譲りなんだ…
にしても
「綺麗な人たち…」
一般の人で深雪ばりに綺麗な人をほぼ初めて見た。
凄い…普通にテレビとかに出てる人より断然綺麗。ってか若い
「空雅?どうしたの?」
「あ…えっと…綺麗すぎて…ビックリしちゃった。若いし」
「あぁ。こう見えてこの人たち結構年いってるよ。母親なんかは七人生んでるし」
「えぇ!!見えない!!」
「あははっ!ありがとう。空雅君だよね。ほら座って。ね?」
この人…可愛すぎる…笑顔にドキドキしちゃった
「失礼します」
促されてお母さんの前に掛ける。
「ふふ…そんなに固くならないでいいのに。取って食ったりしねぇから」
「はい」
「かわいい…」
「親父…そんな目でみんな。ばか」
「何だよ!それ。可愛いから可愛いって言っただけじゃん!!」
え?驚いた…こんなに綺麗な人が子供みたいに…
「ほらぁ!空雅君ビックリしちゃったでしょ!茜。子供みたいなこと言わないでよ!」
「だってぇ!萌葱が…」
「煩い!もう黙ってて!!ごめんね。空雅くん。茜は見た目と中身なんかうまく噛み合ってなくて…」
お父さんはしゅんと俯いてしまった。お母さんには頭が上がらないらしい。そんなところも何だか意外で思わず笑ってしまった
「あははっ!!仲が良くて羨ましいです…ふふっ!」
「よかった。緊張とれた?」
またあの笑顔で笑い僕を見つめてくれるお母さんの瞳はとても真っ直ぐで暖かい
「あ。はい。ありがとうございます」
「改めて。俺が萌葱の母?だよ。男だから母でいいのかわかんないけど…さなえです。よろしくね。こっちが茜」
「よろしくね。空雅君」
うわぁ…この人たちの笑顔凶器だ…息止まりそう…
「えと…空雅です。今萌葱くんとルームシェアさせてもらっています」
「ルームシェアって!!もう!空雅。俺の恋人でしょ?同棲してるの」
「え…と…ははっ…」
「大丈夫だよ。俺たち偏見ないし。俺たちがこれだしね。萌葱からね空雅君のこと聞いてたの。同い年の子ですごく可愛いくてお料理も得意なんだって」
「えぇ。料理は好きです」
「萌葱好き嫌い多いから大変でしょ?俺も結構悩んだよぉ」
「そうでもないです。いつも残さず食べてくれますよ」
「おぉ!萌葱!大人になったなぁ」
「いつまでも子供じゃねぇし…空雅の飯うまいし」
「よかったね。本当はね…すごく心配してた…萌葱さ…緋色のこと…好きだったでしょ?恋愛的な意味で…」
「は?…え…知ってた…の…?」
ばれてたんだ…さすが…親だね…
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