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空雅の場合/79
「…凄く素敵な人だよね。若いのに仕事できるし回りからの信用も厚い…」
「えぇ。彼はずっとそうですよ。それが?」
「君と出会った場所Tsukisaでしょ?」
「何で…」
「ごめんね。君のこと色々調べさせてもらって…清澄さんの存在を知ったの。」
Tsukisa…あのバーの名前だ…月下美人という花の名を持つその場所。花言葉通り色々なものを求める人が来る。
危険な快楽。一夜限りの恋。儚い恋。…他にも沢山の理由で来る人がいる。
ただ一度会いたくて…そんな思いを持つ人も…
僕の周りのみんながたまたま同性を恋人に持つ人ばかりだっただけでやっぱり世間的にはまだ認めてくれない人も多くいる…だから…一夜限りでも…快楽を求めるだけでも…同じ思いを持つ人のためにはとても大切な大切な場所…
マスターはそんな人たちを大切にしてる。弟さんのためもあるのだろう…そして弟さんが愛した八尋さんのためにも
「…マスターに聞いたんだけどね…空雅君と離れてから暫くは仕事に打ち込んで男関係は誰とも何もなかったみたいなんだけど…繁忙期が終わって落ち着いた頃…フラッとお店に来て…その姿はもうボロボロになってたって。窶れていつもビシッと着こなしてたスーツもよれよれで髪もボサボサで…でもあの人それでも綺麗な人だから沢山の人に声かけられるでしょ?かけられた人みんなと…関係を…ね」
「そんなのあの人昔からですよ?」
「君と出会ってからは落ち着いていたらしいよ。前の彼は相手のことを大切にして思いやりのあるノーマルなプレイばかりだったはずなのに今は色々…やっちゃってるみたいで…怪我しちゃう子も出てきて…手におえないみたい…それで俺のところに相談が来たの。彼いってたよ。本当に欲しい人は自分の前から消えてしまうって…ただ一人の人が側にいて欲しいのに…うまくいかない。でも一人でいるとどうしても考えてしまって消えてなくなりたいときもある。でも…自分の部下のこととか回りのこととか…考えちゃうと放り出すこともできない。だったらその日限りの人にその寂しさや憤りなんかをぶつけることでなんとか生かされるしかないって」
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