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空雅の場合/その後3

その日の夜八尋さんと紫水のことを話した。 「でも。僕にはもう八尋さんだけなんだよ。信じて?…なんて簡単には言えないけれど。だってこれまで沢山傷付けてきたもんね…でもね。僕が好きなのは今一番側に居たいのは八尋さんだよ。安心してもらえるようにこれから僕頑張るね」 「空ちゃん…ごめんね…俺…自信なくて…だって空ちゃんは多くの人に求められてきた人だから…わかってるのにね。今こうして空ちゃんといられるのは俺だけだって…」 …この誰よりも愛しい唯一の人の不安はどうすれば拭われるんだろう… きっとまだ萌葱のことも引っ掛かっているのかもしれない。萌葱と別れてその日に八尋さんに告白したんだもん… 実はまだ萌葱が好きで一人は耐えられないから体よくいた八尋さんに声をかけたんだと思われてもおかしくないだろう…だったら…萌葱と会わせてみる… そうして萌葱にスケジュール調節をしてもらって今日会うことになったのだ。 でもすこしだけ2人だけで話したい…だから…席をはずしてもらった。これがまた不安を煽ることにならなきゃいいのだけれど…八尋さんが店から出たのを見計らって話す 「萌葱。あのね。僕は君のこと好きだったよ。これは本当。出会ってお店何度も使ってもらっている内に君に惹かれていたの。でも…君の心は僕のところに来ることはなかったよね」 「…ごめん」 「ふふ…でもね。僕も謝らないと…萌葱と一緒にいるとね八尋さんならこうするなぁとか考えたりしちゃってた。萌葱のことが大好きなはずなのにどうしても…僕も八尋さんが忘れられなかったんだろうね。あのときの僕は気がついていなかったけれど…緋色さんが来たとき全てが府に落ちた。あぁ。そっか。僕も萌葱も本物の恋を諦めててお互いの傷を舐めあっていただけなんだなぁって。って自分でも何言ってるかわかんないけど…でもね。萌葱。あの一年がなければ今の僕たちはなかった。あれがあったから僕たちは生きてこられたんだよね。あのときは確かにお互いがお互いを必要としてた。傷を癒すためにとても必要な時間だったんだって。ねぇ。萌葱。君はこれから大変な生き方をしないとならないかもしれない。でも忘れないで?萌葱が萌葱でいる限り必ず光は差し込んでくるから。僕はどんなときでも萌葱たちの味方でいるから。だから!ちゃんと自信もって前見て生きて!僕から言われなくても萌葱は大丈夫だろうけど敢えて言わせてもらうね。萌葱本当にありがとう…萌葱…幸せになって…自分のことも愛してあげて…お願いだから…これからもずっと笑っていて?」 「…空雅…ありがとう。少しだけ抱き締めていい?」 「ん…」 ねぇ。萌葱…僕といた一年は君にとって有意義なものでしたか?少しでも傷を癒すことはできましたか? 君に出会えて良かった…君のこと大好きだった…緋色さんのことを思っているとは知りながらも強く強く惹かれたと…僕はそう感じていました。形は愛情ではなくて友情だったのかもしれない。でもね。萌葱と過ごしたあの一年間は僕にとってとてもとても大切な時間でした。 僕たちは少しだけ遠回りしたけれどちゃんと真実の愛に辿り着けたよね? だから…お互い幸せになろうね…これから先どんな困難だって互いの愛しい人と乗り越えていこうね。 「空ちゃん…」 「おかえり八尋さん」 八尋さんの胸に飛び込む。やっぱりここが一番安心する。すごく幸せ 「清澄さん。すいません。空雅可愛いから思わず抱き締めちゃいました」 そう悪戯っぽく言う萌葱に八尋さんはしゅんとうつむいた 「でもね。清澄さん。空雅はね俺と一緒にいたあの一年あなたを忘れたことはなかったです。話していると端々にあなたのことが溢れてた。一年は恋人だったので色んなこともしました。でも…これは空雅にも言ってないんだけど…空雅は俺に抱かれてるにもかかわらず何度も貴方の名前を呟いていたことがあったんです」 「え!?そんな…そんなこと」 「ふふ…空雅あの日言ったよね。僕の演技に気がつけないなんてって。本当はねずっと気付かないふりしてただけなんだ。その八尋さんて人が空雅とどんな関係だったのかなんてわからなかったけど。空雅はあなたをずっと求めていた。これだけは紛れもない事実です。俺たちはお互いに本当に愛している人がいたのに叶わないと始めから諦めて互いの傷をなめあっていた。それが今ならよくわかります。空雅の中には貴方しかいない。俺はそう確信しています。だから…お願いです。空雅と共に幸せになってください…俺も俺だけの愛しい人と幸せになりますから。だから次に会うときは俺たちは必ずお互いのパートナー連れてそしてそのときは一緒に思い出話でもしましょうね」 「はい」 しっかりうなずいた八尋さんを見るとにこりと笑って萌葱は颯爽と帰っていった

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