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深雪の場合/26

由斗side その日は突然やって来た。ここから抜け出せる術を探しながらぼんやり過ごしはじめて10日後だった。 ウィルは時間を見つけては会いに来てくれて男のことを色々調べてくれた結果を教えてくれたが彼へのきな臭い噂なんて全く見えてこないそうだ。 もともと貧民街の出身だったと言うことと俺たちより4つ年下ってこととノアと言う名前くらいしか。 犯罪歴なども全くなく俺に危害を加えるわけでもない。それに監禁されているわけでもない。 実は家の鍵はいつも開いていて出掛けようと思えばいつでも出掛けられたのだ。 でも彼の伸ばした髪の隙間から見えるまっすぐな瞳を見ていると勝手に帰るなんてしてはならない気がした。彼は何かから救われるべきだと感じてた。それの手助けを俺ができれば… 「ねぇ。由斗」 「ん?何?ノア」 「ごめんね」 「何が?」 「由斗…ごめん」 泣きそうな顔で俺を抱き締める男。あの日から男はいつも柔らかく穏やかな笑みを浮かべていて甲斐甲斐しく世話を焼いてくれた。 男が俺を抱くことはなかった。触れ合いと言えばたまに抱き締めてきたり額や頬にキスをする挨拶程度のそれ。ただそれだけ 「由斗…君を愛してる」 「うん…」 「だからね…君を深雪の元へ帰そうと思うんだ…」 「え…」 「あのね…俺君に一目惚れしたんだ。あの日…君は荷物を受け取ってくれたときにこやかに受け取ってくれたよね。俺はさ、こんな見た目でしょ?だから皆が蔑んだ目で面倒そうに受け取ってた。だからね君のそれがすごく嬉しかった…その晩ね。夢を見たんだ。君と俺が仲良く寄り添う夢…俺の姿は始めはぼんやりででも幸せそうに一緒に笑ってたんだ…俺の姿が鮮明に写ることはなかったのだけれど…君が深雪と再会してからは深雪に自分を投影してた。深雪みたいに美しければ隣にいられるって思って…それがいつしか夢か現実か境目がわからなくなって…自分でも恐ろしいよ… 沢山嫌な思いや怖い思いをさせたよね…深雪にも…ごめんね… でもやっと…気が付いた。すべては俺の夢だったって…昔からね俺そういうところあって何が現実で何が夢なのか境目がわからなくなっていくんだ…でもさ…由斗を抱き締めても現実味無いから…そんな記憶が俺にはないってわかったから…あぁ…幻想だったんだって…由斗は深雪のところだといつも笑ってた。すごくすごく綺麗だった…すごくすごく幸せそうだった…俺…」 「…ねぇ。ノア」 「…」 「ごめんね。俺はやっぱり深雪じゃないとダメなんだ…君の優しさはとても嬉しかったよ。この10日は俺にとってはやさしいものだった。だからね…泣かないで…」 ノアは優しすぎたんだ…ずっと自分のコンプレックスを抱えてて現実逃避したくて… 「ねぇ。ノア。俺思うんだ。君はきっといい人と出会うよ。だってこんなにも心が美しいじゃない」 「ううん…結局のところ見た目で判断されるんだよ…嫌というほど経験してきた…綺麗な君にはわからないことだろうけど…人は中身だ何て言うけれどそんなの嘘だよ…」 「まだ出会っていないだけだよ。君の輝き見つけてくれる人が絶対現れる。だからそんなこと言わないで」 「由斗…」 「ノア。友人にならないかい?俺たちと」 「友人…」 「前を向いて笑って。君の笑顔は優しいんだから自信もって。ね?」 「なれる?こんなに酷いことしたのに」 「もっと酷いことだってされてきてるから問題ないよ。ね?友人になろう?」 「ありがとう…ありがと…由斗…」

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