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第5話 地下の喫茶 アイリス

5. 地下の喫茶 アイリス 法務部でチェックされた契約書を確認し、明日の予定を変更して、部署内のグループウェアに送り込んだら、時刻はもう9時迄後何分かというところだった。 少し罪悪感を感じながら草太とのラインに今夜はもう少し遅くなるとメッセージを入れると、カバンを持ってエレベーターホールまで照明を落とした通路を歩く。 ホールに誰もいないのを確認してから履歴から通話をタップして、初めて少し指が震えていることに気がついた。 呼び出し音が鳴っている。長いな……なんならこのまま出なくて良いと思い始めた頃、 「 はい 」 と応答があった。 「 今、終わりました 」 「 はい、南口の◯◯銀行の真向かいの喫茶店にいます。店名はアイリスです 」 「 わかりました、5分ほどかかります 」 「 お待ちしています 」 ねぎらいの言葉が欲しかったわけじゃないが、お疲れ様も言えないのか…… 益々会うことが億劫になった。 時間通りに銀行に面したビルの地下のアイリスという喫茶店の扉を開ける。 薄暗く、クラッシックな雰囲気でまとめられた室内は小さくどこかで過去聞いたことのあるヴァイオリンの曲が流れている。 店内に入って見回すと、奥のボックス席に彼女の姿が見えた。 居なきゃいいのに、そんな否定的な気持ちに塗れて僕は冷静に話が聞けるのかな。最初からもう部が悪そうだと苦々しい気持ちになった。 近づくと、彼女は一人ではなかった。横に座る男。 この話は本当に気持ちの悪い話になるかもしれない…… なぜか僕の予感は当たるんだ。 立ち上がった彼女が挨拶をしながら、僕に向かい側のソファに座るように促す。 「 こんばんは、お忙しいのにすみません。こちらは私が結婚をする方で 」 やっぱり。 この目の前のネクタイを緩めて濃いグレーのスーツを着た男は頭を軽く下げて、 「 三上です 」 と名乗った。 アイスコーヒーを頼んだのは指の震えが気づかれないため。 「 それで 」 と惠さんが、話し始める。 全く一方的で勝手な言い分に、 最後の頃は隣の男の僕へのハラスメント。 僕は この夜に、 融けてしまいたくなった。

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