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第6話 落ちる
6. 落ちる
ねっとりとまとわりつくような梅雨の重たい夜に足が影を引きずるように前に進む。
帰らなくちゃ、明日の雄介の着替えを出さなきゃ。草太、雄介の脱いだものを洗濯機に入れて回してくれたかな。
遅い電車の中はアルコールと湿った匂いで満たされている。急に気分が悪くなった僕はドアにもたれて早く駅に着かないかと唇を噛み締めた。
そっと玄関の鍵を開けて中に滑り込む。暗い廊下に電気を点けずに自分の個室に入ると、スーツを脱ぐのも面倒でベッドに横になった。
東京に帰った時に、誰に来られても良いようにベッドをもう一つ買ったんだったな。誰が来ても良いように、僕らの留守に雄介の面倒を見てもらう時のために鍵も渡してある。
『 親権を渡してくれって、
私たちに子どもができるから、
男の子だって心配して 』
『 私、親権手放したくない 』
『 草太の方が条件が良くないでしょ 、あなたがいるから 』
『 一緒に男が暮らしてる所で 』
『 雄介はまだわからないかも 』
『 あんた男が好きなのか?
草太さんも男に好かれて大変なこった 』
『 息子のためにならないだろ、
男同士でセックスできんの?』
『 やめて、気持ち悪い 』
『 一緒に暮らしてんなら、雄介の前でもそんなことするのか?』
『 こりゃあ、教育上とんでもないわ 』
『 雄介が大きくなったら、雄介にも 』
『 気持ち悪いって!』
『 兎に角、親権は私が 』
『 お母さんも嫌がってる 』
『 そりゃそうだろ、孫のオヤジがホモと一緒じゃ 』
『 雄介が邪魔だと言って 、
草太はあなたの言うことなら聞くから 』
動悸がして飛び起きる。夢じゃない、これは夢じゃなかったんだ。
暗い一人の部屋でタオルケットの中に潜り込む。頭をタオルでぐるぐるに巻いてしまったら今夜の二人の声が聞こえなくなるかも。
震える体を休めることもできずに僕はただタオルの中に閉じこもった。
それでも疲れた体に眠りはやってくる。闇が心を覆うように僕は静かに落ちていった。
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