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第8話 お迎えは
8. お迎えは
できた契約書を現地に送ると、課長が次のおおよその流れを確認する。
「 柴山君、やはりもう一回あっちへ行ってもらうかもしれないな 」
「 はい 」
やはりそうだよな、昨日まではそのことを恐れていた僕が今朝は妙に冷静に受け止められる。
「 そうですね、現地で相手にも何回か案件を打診された事もありますから、私が行った方が良いと思います 」
「 そうだな、少しそれで予定を調整してくれるか 」
課長に頷くと僕は自分のスケジュールを確認する。
少なくとも来月中頃には行けるように調整しないとな。
頭の中から私的な問題は追い出した。
今日は少し早めに帰れると草太にラインをすると、今夜は草太の方が遅くなりそうと帰ってきた。
夜7時、社を出ると帰宅ラッシュの時間の乗り継ぎの良さで予定通りに自宅のある駅に降り保育園に向かう。雄介の喜ぶ顔が眼に浮かぶとお迎えの足が急く。
園の門扉を開けて締める。こんなお約束の動作も普通になっている。カラフルな色が施された玄関から中に入ると、雄介がキチンと小さな子ども用のソファに座って僕を待っていた。
「 あ、ハセ!ハセだ。
先生、ハセ来た 」
「 こんばんは。雄介君、ハセ来たじゃないでしょ 」
僕に挨拶して、笑いながら雄介に話をするのは珍しく園長先生だった。
「 こんばんは、ありがとうございました 」
靴を一人で履く雄介をじっと待つ僕に、
「 偉いですね、柴山さん。なかなか待てない親御さんが多いんですよ。
あら、ごめんなさい偉いなんて、大人の人に、ねぇ 」
ほころぶように笑顔を向ける園長先生。ホッと気持ちがあったかくなる。
「 雄介が一所懸命やるのが可愛くて 」
僕がそう伝えると、ウンウン頷きながら、
「 この歳のお子さんを育てる時には、待つという事がとっても大切な事なんです 」
その言葉を反復する。待つという事……僕は待つことには慣れてるから。雄介が自嘲気味に笑う僕の手を握ると、
「 えんちょ先生、サヨナラ 」
っと片方の手を振る雄介の指をしっかりと握って家路についた。
言葉が途切れることなく今日会ったことを僕に教えてくれる雄介。
さぁ、帰ってからは寝る時間まで駆け足だ。お風呂に入れて、作ってある何品かで夕飯を済まして、絵本を読んで。
馴染んできた生活は僕のリズムも刻んでいる。
分離していく心を繋ぎ止めるのはこの小さな指を絡ませる愛しい存在。
別れなくちゃならないのかな。
心を突き刺すその言葉に今夜は蓋をする。
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