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第9話 ごめんなさい
9.ごめんなさい
そうか、僕が出て行けばいいんだ
そうだったんだ。
今日、一つの通話越しに放たれた槍は僕の心に深く深く突き刺さった。
「 馳君、わかるでしょ、あなたが一緒にいると草太は不利になるのよ。
親権を取り戻したいの草太は。
男の人と一緒に暮らしてるなんて分かったら戻す事が難しいって先生にも言われてるの。
分かってくれる?あなたはまだやり直せるでしょ、でも雄介には今が一番大切な時なのよ、
草太に雄介の生活を支える万全な用意がないと、恵さんから親権が取り戻せない
お願いね……」
とうとう、来たんだ。恵さんに草太に雄介が邪魔だと言ってと言われた日から二日経った昼過ぎに僕にかかってきた一本の電話は僕の日常を切り裂いた。
電話越しに聞こえる言葉に何度も唇を噛み締める。トイレの鏡を覗くと乾いた唇からは血が滲んでいた。
深く深く深呼吸する。
全てを纏めないと、社で、家で。
草太と雄介の前でどんな顔をして何を伝えれば良いの?
後、帰宅するまでの何時間かで僕は覚悟を決めなくちゃならないね。草太、雄介、ごめんなさい。
僕は、、、。
スケジュールを組み直すと課長に告げた。
「 来月月始めなら一応向こうへは行ける準備ができます 」
「 そうか、分かった。少し早めに入ってもらった方があっちの駐在も助かるだろう 」
社の業務はトントンと軽快に決まっていく。
今日は草太が迎えにいくと言っていたから目一杯こちらでの仕事を片付けよう。
話すのを引き伸ばしたい気持ちを見ないように始めた業務が終わったのはもうそろそろ終電がなくなる時間だった。
帰りたくない……
さっき着信した草太からのライン。
『 お袋から実家に寄ってくれって言われたから今夜はあっちで済ませてから帰る。馳も都合の良いようにして 』
その文に震えがくるほど悲しくなった。僕の都合って何?
俯いて見つめたスマフォの画面にメッセージが着信した。
『 元気ですか?原田です 』
暗闇に浮かぶパフッと浮かぶ白い文字。
そのあまりにも単純な挨拶が僕の手の中で震えている……違うな、震えているのは僕の身体だった。
メッセージを開く指。
そして、何かが変わる音がした。
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