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第10話 居る、場所
10. 居る、場所
原田さんは片瀬江ノ島の駅まで迎えにきてくれた。
引っ越した住所はわかりにくいからと改札の先で待っている姿は相変わらずの派手なTシャツとサーフパンツで、
思わず和んだ僕を見るなり、
「 久しぶり、来てくれるとは思わなかったよ 」
と言ってやけに決まったウインクを寄越す。
地元に帰る最終電車まで1時間ほどだけど思い切って来て良かった。
降りた途端に強い潮の香り嗅いで懐かしさがこみ上げてくる。
原田さんの家は海岸道路から一歩入った波の音がはっきりと聞こえる古い一軒家。
「 また定期借家だけと、いいだろう〜昭和臭くって。
すごいよ風の強い日は窓が壊れてるのかと思うくらい波の音が響くんだ 」
「 部屋数多くない?」
「 うん、馳君がいつ来ても良いように、ね 」
軽口に思わず黙ってしまった僕の顔をじっと見る彼の目は全然笑っていなかった。
「 何があった?酷い顔してる 」
俯いたままの僕を抱き寄せる腕は暖かくて大きくて、やっと息ができた気がした。
結局、ビールを飲んで潮の香りと波の音を彼の腕の中で聞きながら帰るまでの時間を過ごした。伝えることは何もできなかった。
草太としっかりと話す前に原田さんに甘える事はしない。
駅まで送ってくれた原田さんは別れ際に、いつでも来ていいから、と言ってくれた。
お客も疎らな電車の中でカバンで隠した顔を伝わったのは、何の涙なんだろう。まだ僕の居場所がある事にホッとしたから?
家に着いたのは真夜中を回った時間。今夜は普通に音を立てて家に入る。
リビングのソファに草太が座って僕を待っている。
話があるんだ、お互いに。
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