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第11話 再度、落ちる
11. 再度、落ちる
「 馳、どこに行ってた?」
「 うん、ちょっと人と会ってた 」
「 どこで?」
「 海の方 」
それだけで草太は僕が誰と会ってたのか分かった様子だった。
「 潮の香りがする……」
「 そう?」
いや、そんな話じゃない、大切な話をしないと。
「 草太、僕は転勤になった 」
ほんの少し嘘を混ぜる。転勤じゃなく長期の出張だけど。
「 え?どこに?」
「 海外、前と同じところ 」
目を見張った草太の顔が一気にたわむ。
「 何で!そんな事一言も言ってなかった!急に決まるのか転勤なんて、嘘だろ!」
こんな激昂すること草太を見るのは初めてかもしれない。
「 うん、イレギュラーだけど、急なオファーがあって、もともと向こうでその社の担当は僕だったし……一人向こうに行った社員が辞めちゃったのもあるし、ね。
契約を纏めるのに僕が行くのが一番良いとなったんだ。
嘘じゃないよ、草太だってわかるだろ?行けるかと打診されて断れる歳じゃない 」
顔を真っ赤にしたまま黙ってしまった草太。
「 草太の方も僕に話があるんだろ?」
実家に呼ばれたという事は、僕に伝えたある程度のことは草太にも言っているはずだ。あのおばさんは気が強いけど嘘を簡単につけるような人じゃない。
惠さんの事だけは絶対に喋らない。僕はもう一度下腹に力を込めた。
「 おばさんが僕に電話して来た事、知ってるんだろ?」
赤い顔が一気に蒼ざめた。目を見張って僕を凝視する草太。
あぁ、こんな顔させたくなかったな。
「 すまない、少しの間離れて暮らそう 」
「 え? 」
草太が流石に今夜そこまで言うと思っていなかった僕の頭はその言葉に何の反応もできなかった。
呆けたように草太を眺める。
そうなんだ、もうそこまで来てたんだ。
遠くで踏切のカンカンなる音が聞こえてくる。真夜中はシンと静まるここに、僕の居場所はなかったんだ。
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